理論・視点

ブルウィップ効果Bullwhip Effect

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

サプライチェーンでは、小売の販売の変動よりも、上流の卸や工場へ向かう発注の変動のほうが大きくなり、しかも上流に行くほど増幅される。その原因は、各企業が手元の情報にもとづいて合理的に行動することにあるとする理論。

目次
説明したい問い消費者の需要はあまり変わらないのに、なぜ上流の企業ほど注文の大きな増減に振り回されるのか。
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中核的な問い

商品は、工場から卸、卸から小売へと流れ、注文はその逆向きに流れる。店頭の売れ行きがほぼ一定でも、卸が工場に出す注文や、工場が部品会社に出す注文は大きく上下することがある。鞭(むち)の手元を少し振ると先端が大きく揺れるように、変動が上流で膨らむのはなぜなのか。

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主張とメカニズム

Lee, Padmanabhan, & Whang (1997) は、ブルウィップ効果を「供給者への発注の変動(分散)が、買い手の販売の変動よりも大きくなる傾向(需要の歪み)があり、その歪みが増幅された形で上流へ伝わっていく(変動の増幅)現象」として捉えた。以前から、ビールの流通を模したゲームを使った Sterman (1989) の実験などで、この種の増幅は知られていた。そこでは、意思決定者が在庫や発注の遅れといったフィードバックの構造を読み違えることが原因とされた。これに対して Lee らは、チェーンの各メンバーが自分の立場で合理的に行動していても、この効果が生じることを数理モデルで示した。

原典は四つの原因を挙げる。第一は需要シグナルの処理である。下流からの注文の増減を将来の需要の変化と読んで予測を修正し、そのたびに補充の目標とする在庫水準を引き上げたり引き下げたりすると、注文の振れ幅が大きくなる。補充のリードタイムが長いほど、この歪みは大きくなる。第二は割当てゲームである。品不足のときに供給者が注文量に比例して商品を割り当てると、買い手は少しでも多く確保しようと、供給に限りがない場合よりも大きな注文を出す。注文量を自由に決められることや、返品や注文の取消しに寛容な方針が、この駆け引きを助長する。第三は発注のまとめ買い(バッチ化)である。発注費用や輸送費を抑えるために注文をまとめると、注文はときどき大きく出るだけになる。第四は価格の変動である。値引きのときに買いだめし、定価に戻ると買い控えるため、実際の消費よりも注文が大きく揺れる。

この見方にしたがえば、対策は個々の担当者の注意ではなく、仕組みの見直しに向けられる。原典は、店頭の販売情報を上流と共有すること、発注を小口にすること、割当ての方法や価格政策を見直すことなどが、歪みを抑える手がかりになると論じた。

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身近な例

たとえば、ある飲料が店頭で毎週ほぼ同じ数だけ売れているとしよう。ある週、小売店が値引きセールのために多めに注文する。卸はこれを人気の高まりと読み、在庫の目標を引き上げて工場に大量に注文する。工場は増産し、さらに多くの原料を発注する。ところがセールが終わると小売店はしばらく注文を控え、卸にも工場にも在庫が積み上がる。消費者の購買量はほとんど変わっていないのに、上流ほど注文の山と谷が大きくなる。

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主要概念

ブルウィップ効果(bullwhip effect)
発注の変動が販売の変動よりも大きくなり、その歪みがサプライチェーンの上流へ増幅して伝わる現象。
需要シグナルの処理(demand signal processing)
下流からの注文を需要の変化の手がかりとして予測や在庫水準を修正することで、注文の変動が大きくなる原因。
割当てゲーム(rationing game)
品不足時に注文量に応じて商品が割り当てられるため、買い手が注文を実際より膨らませる行動。
発注のバッチ化(order batching)
費用を抑えるために注文をまとめて出すことで、注文の流れが平らでなくなること。
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代表的な展開研究

  • Chen, F., Drezner, Z., Ryan, J. K., & Simchi-Levi, D. (2000). Quantifying the bullwhip effect in a simple supply chain: The impact of forecasting, lead times, and information. Management Science. DOI ↗単純なサプライチェーンのモデルで、需要予測の方法とリードタイムが発注の変動をどれだけ増幅するかを定量化し、需要情報を集中して共有しても効果は小さくなるが消えはしないことを示した。
  • Cachon, G. P., Randall, T., & Schmidt, G. M. (2007). In search of the bullwhip effect. Manufacturing & Service Operations Management. DOI ↗米国の業界別の月次データを用いて、各業界への材料の流入(生産)の変動が需要の変動を上回っているかを実証的に検討した。季節調整前のデータでは、卸売業では上回ったが、小売業の大半と製造業の多くでは上回らなかった。
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批判と境界条件

原典の著者自身も、効果の広がりには慎重である。Lee, Padmanabhan, & Whang (2004, p. 1892) は10年後の振り返りで、ブルウィップ効果の証拠は圧倒的に見えるとしつつ、どこにでもあるとは推論できないと述べた。そのうえで、業界ごとに効果の大きさを実証的に測り、効果を抑え込めている企業とそうでない企業の違いを調べる研究が必要だとしている (p. 1892)。

Cachon, Randall, & Schmidt (2007, p. 457) は、米国の業界単位の月次データ(1992〜2006年)で、各業界への材料の流入(生産)の変動が、需要の変動を上回るかを調べた。季節調整をしないデータでは、卸売業の89%で生産の変動のほうが大きかったが、小売業の83%では逆に生産のほうが平らで、製造業は6割が平準化、4割が増幅だった (p. 468)。季節による需要の波が大きい業界ほど生産を平準化し、波の小さい業界ほど増幅する傾向があった (p. 457)。季節調整したデータで測ると、ほぼすべての業界で増幅が見られ、先行研究と同じ結果になる (p. 476)。著者は、どちらのデータで測るべきかは議論の余地があると認めつつ、企業が応じるのは季節調整前の実際の需要だとして、調整前のデータを選んだ (p. 476)。また、この分析は増幅と平準化の力の差し引きを見るもので、四つの原因がそれぞれ実際に効いているかは検証していない (p. 465)。

Bray & Mendelson (2012) は、業界ではなく企業単位で調べた。1974〜2008年の米国上場企業4,689社のうち、およそ3分の2の企業で発注の変動が需要の変動を上回った (p. 860)。31業界のうち26業界で平均が正であり、この点で Cachon らの結論とは異なる (p. 867)。Bray らは、この食い違いを業界単位への集計で説明する。企業ごとのばらばらな変動は集計すると打ち消し合うが、季節の変動は企業間でそろっているので残り、集計の段階を上げるほど平均の効果はゼロに近づいた (p. 867)。Cachon et al. (2007, p. 477) 自身も、企業では効果があっても業界では見えないことがありうると認めていた。時代による変化についても、Cachon et al. (2007, p. 476) の業界データではほぼ安定していたのに対し、Bray & Mendelson (2012, pp. 860, 869) の企業データでは、1995年以降の平均が1974〜1994年より3分の1ほど小さくなった。

ただし Bray & Mendelson (2012, p. 874) も、効果は普遍的なものではなく、企業によって大きく異なると述べる。企業は平均して、直前に届く需要の変化は増幅するが、季節の変動は平準化しており、効果はこの二つの力の綱引きの結果だという (p. 874)。小売業は季節を平準化する傾向が強く、平均でブルウィップ効果が見られない唯一の部門だった (p. 867)。著者は限界として、サプライチェーンではなく企業ごとに測っていること、売上原価で需要を、生産で発注を代用していること、四半期・企業単位に集計したデータであることなどを挙げている (p. 874)。

研究上の位置づけ

原典Lee, H. L., Padmanabhan, V., & Whang, S. (1997)
Information distortion in a supply chain: The bullwhip effect
分類概念
分析単位組織 · コミュニティ
理論系譜経済学 · 行動論
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。