トークニズムTokenism
一言で言うと集団のなかでごく少数しかいない属性の人々は、個人としてではなく、その属性を代表する「象徴」として扱われる。そのため、目立ちすぎ、多数派との違いが誇張され、型にはまった役割を押しつけられるという不利を負う。こうした不利は、個人の資質ではなく集団内の人数の比率という構造から生じる、とする理論。
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
男性ばかりの職場に女性が一人だけ配属されると、その人の言動は必要以上に注目され、「女性はこうだ」という見方で評価されがちである。これは女性という属性そのものの問題なのか。それとも、集団のなかでごく少数だという立場が生む問題なのか。
主張とメカニズム
「トークンとは、集団のなかで数の上でごく少ない側の人々であり、個人としてではなく、その属性のカテゴリーを代表する者、つまり象徴として扱われることが多い人々である」。Kanter (1977) はこう述べて、この人々をトークンと呼んだ。Kanter は、仮名の大企業「インズコ(Indsco)」での調査をもとに、組織のなかの人々の行動を、個人の性格ではなく、機会、権力、そして人数の比率という構造から説明した。トークンは、このうち比率についての議論の中心にある概念である。Kanter は、集団をその構成によって、全員が同じ属性の均一な集団、一方が圧倒的に多い偏った集団、少数派がある程度の割合を占める傾いた集団、ほぼ同数の均衡した集団に分け、トークンが生まれるのは偏った集団だとした。
トークンの立場は、三つの知覚上の現象を生む。一つ目は可視性で、少数派は目立つため、その言動が注目されやすい。二つ目は対比(二極化)で、少数派がいることで多数派が自分たちの共通点を意識し、違いが誇張される。三つ目は同化で、少数派の人は一人ひとりの特徴ではなく、その属性についての既存のステレオタイプに当てはめて見られる。
これらはそれぞれ、トークンの側に負担を生む。可視性は、失敗が目立つことによる業績上のプレッシャーを生む。対比は、多数派が仲間内の境界を強め、トークンを非公式の輪から外すことにつながる。同化は、トークンをステレオタイプに沿った役割に閉じ込める。Kanter は、女性の営業職の観察から、「母親」「誘惑者」「ペット」「鉄の処女」といった型にはまった役割を挙げた。Kanter の主張の要点は、こうした現象は女性だからではなく、少数派という比率の位置にいれば誰にでも生じうるということであり、したがって少数派の人数を増やすことが対策になるという点にある。Kanter は同じ年の論文でも、この比率の議論を示している。
身近な例
たとえば、ある部署で、十数人の営業担当者のうち若手の外国籍社員が一人だけだとしよう。その人が会議で意見を言うと、内容よりも「外国人の視点」として受け取られる。小さなミスをすると、「やはり慣れていないのだ」と属性に結びつけて語られる。同僚たちは飲み会の雑談で自分たちに共通する話題で盛り上がり、その人は輪に入りにくい。トークニズムの見方では、これらは本人の能力や性格からではなく、その人が部署でただ一人の少数派だという構成から説明される。
主要概念
- トークン(token)
- 集団のなかで数の上でごく少なく、個人としてではなく属性の代表や象徴として扱われる人。
- 偏った集団(skewed group)
- ある属性の人々が圧倒的多数を占め、別の属性の人がごく少数しかいない集団。
- 可視性(visibility)
- 少数派であるために目立ち、その言動が過度に注目されること。
- 対比(contrast / polarization)
- 少数派の存在によって多数派が自分たちの共通点を意識し、両者の違いが誇張されること。
- 同化(assimilation)
- 少数派の人を、その属性についての既存のステレオタイプに当てはめて見ること。
代表的な展開研究
- Yoder, J. D. (1991). Rethinking tokenism: Looking beyond numbers. Gender & Society. DOI ↗トークンの不利は人数の比率だけでは説明できず、性別に結びついた地位や職業の性別イメージ、組織への侵入に対する反発などが関わると論じた。
- Williams, C. L. (1992). The glass escalator: Hidden advantages for men in the "female" professions. Social Problems. DOI ↗看護などの女性の多い職業で働く男性への聞き取りから、少数派の男性はむしろ昇進などで有利に扱われることがあると示した。
批判と境界条件
Kanter の主張は、トークンの不利が属性ではなく比率から生じるという点にある。これに対して Yoder (1991) は、少数派の不利は比率だけでなく、社会におけるその属性の地位によって大きく変わると批判した。Williams (1992) は、女性の多い職業で少数派となる男性が、Kanter の予測とは逆に、昇進などで有利に扱われる場合があることを示した。これらの研究は、比率の効果が、少数派が社会的に低い地位の属性であるときに特に強く現れる可能性を示している。
研究上の位置づけ
Men and women of the corporation
出典
- 原典Kanter, R. M. (1977). Men and women of the corporation. Basic Books.
- Kanter (1977). Some effects of proportions on group life: Skewed sex ratios and responses to token women. American Journal of Sociology. ↗
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