フォルトラインDemographic Faultlines
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと集団の多様性の影響は、属性ごとのばらつきの大きさだけでは決まらない。複数の属性(年齢、性別、職種など)の違いが同じ境目でそろうと、集団を下位集団に分ける仮想的な分割線(フォルトライン)が生まれ、それが集団内の対立や分裂を生みやすくする、とする理論。
目次
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
多様性の研究は長く、年齢のばらつき、性別のばらつき、というように属性を一つずつ取り上げて、その影響を調べてきた。しかし、四人のチームで「若い女性二人と年配の男性二人」の場合と、「若い男性と年配の女性、若い女性と年配の男性」の場合とでは、属性ごとのばらつきは同じでも、チームの雰囲気は大きく違いそうである。違いを生むのは何なのか。
主張とメカニズム
「フォルトラインとは、一つまたは複数の属性にもとづいて、集団を下位集団に分けうる仮想的な分割線である」。Lau & Murnighan (1998) はこう定義し、Lau & Murnighan (2005) もこの定義を引いている。同論文は、これを地殻の断層になぞらえた(Jehn & Bezrukova, 2010 もこの比喩を用いている)。断層は、外からの力がなければ何年も動かずにいるが、力が加わると動き出す。同じように、フォルトラインも常に集団を割るわけではなく、条件がそろうと集団を分裂させる。
Lau & Murnighan (1998) の中心的な考えは、多様性の効果を属性ごとに見るのではなく、属性の組み合わせ、つまり集団の構成全体で見るべきだというものである。複数の属性の違いが同じ境目でそろう(整列する)ほど、また、分かれた下位集団の内部がよく似ているほど、フォルトラインは強くなる。先の例でいえば、「若い女性二人と年配の男性二人」は、年齢と性別の境目がそろっているので強いフォルトラインをもつ。反対に、属性が入り組んでいる集団では、はっきりした分割線は生まれにくい。多様性が最小の集団にも最大の集団にもフォルトラインはほとんど生じないことから、Lau & Murnighan は、一つひとつの属性の多様性が中程度の集団で、かえって強いフォルトラインが生じうると論じた。
フォルトラインは、ふだんは表に出ない潜在的なものである。Lau & Murnighan (1998) は、取り組む課題やそのときの状況が、分割線にかかわる属性を意識させると、フォルトラインが活性化して下位集団が形成され、集団内の対立が起こりやすくなると論じた。また、早い段階で活性化したフォルトラインは時間とともに自らを強めていくが、フォルトラインにそって下位集団に分かれなかった集団では、共通の課題経験と相互理解が積み重なるにつれて、フォルトラインの顕在性が下がっていくという命題も示した。
身近な例
たとえば、ある新規事業のチームが、本社から来た年配の営業担当者三人と、買収した会社から来た若い技術者三人でつくられたとしよう。出身企業、年齢、職種の三つが同じ境目でそろっているので、強いフォルトラインがある。ふだんは仲良く仕事をしていても、予算の配分を決める会議で営業と開発のどちらを優先するかが議題になると、分割線が一気に表に出て、「本社組」と「買収組」に分かれて対立するかもしれない。
主要概念
- フォルトライン(faultline)
- 一つまたは複数の属性にもとづいて、集団を下位集団に分けうる仮想的な分割線。
- フォルトラインの強さ(faultline strength)
- 複数の属性の違いがどれだけ同じ境目にそろい、その結果できる下位集団の内部がどれだけ似ているかの程度。
- 下位集団(subgroup)
- 集団の内部で、共通の属性によってまとまった一部のメンバー。
- 活性化(activation)
- 潜在的なフォルトラインが、課題や状況をきっかけに意識され、実際に集団を分ける働きをもつようになること。
代表的な展開研究
- Lau, D. C., & Murnighan, J. K. (2005). Interactions within groups and subgroups: The effects of demographic faultlines. Academy of Management Journal. DOI ↗原典の著者自身が、大学の授業のプロジェクト集団で、性別と民族がそろう強いフォルトラインの集団と、そうでない弱いフォルトラインの集団をつくり分けて比べた。フォルトラインは、属性ごとの多様性の指標より多くの分散を説明した。また、下位集団をまたぐ仕事上のやりとりは、弱いフォルトラインの集団では心理的安全や期待する成績などの評価を高めたが、強いフォルトラインの集団では効果がなかった。
批判と境界条件
Thatcher & Patel (2012, p. 970) は、Lau & Murnighan (1998) を、その後の実証研究と概念的研究を生んだ概念的な論文と位置づけている。そのうえで、原典の命題にはまだ実証的に調べられていないものが残っていると指摘する (p. 993)。たとえば、フォルトラインを浮き彫りにする課題では、フォルトラインが強くはっきりしているほど課題の意味づけ(センスメーキング)の過程が短くなるという原典の命題 (Lau & Murnighan, 1998, p. 333) は、その後ほとんど扱われていない (Thatcher & Patel, 2012, p. 993)。フォルトラインにそって下位集団に分かれなかった集団では、共通の課題経験と相互理解が積み重なるにつれてフォルトラインの顕在性が下がるという命題 (Lau & Murnighan, 1998, pp. 333–334) も、十分には調べられていない (Thatcher & Patel, 2012, p. 994)。
Lau & Murnighan (1998, p. 328) は、集団には多くの潜在的なフォルトラインがあり、それぞれが特定の下位集団への分かれを活性化させたり、その可能性を高めたりしうると述べていた。Jehn & Bezrukova (2010, p. 24) は、属性の並びにもとづく潜在的なフォルトラインと、メンバーが実際に下位集団を意識している活性化したフォルトラインとを区別した (p. 24)。実験では、活性化したフォルトラインをもつ集団は、潜在的なフォルトラインにとどまる集団より、連合をつくりやすく、対立が多く、満足と業績が低かった (p. 24)。潜在的なフォルトラインは必ずしも活性化するわけではなく、権利意識の強いメンバーが両側に一人ずついるという性格の組み合わせが活性化を促した (p. 37)。
ただし、Thatcher & Patel (2012, p. 982) は、潜在的なフォルトラインは活性化していなくても影響をもつという知見を紹介している。同論文 (p. 991) の量的な集計では、潜在的なフォルトラインも活性化したフォルトラインも、対立を増やし業績と満足を下げるという似た関係を示し、その関係は活性化したほうが強かった。一方で、潜在的なフォルトラインの研究は主に現場で、活性化したフォルトラインの研究は主に実験室や学生の集団で行われてきたため、職場のチームで両者の影響がどう違うかはまだよく分かっていない (p. 996)。Jehn & Bezrukova (2010, p. 39) 自身も、小規模で短期の実験室実験であることが外的妥当性を損なうと認め、組織で時間をかけて確かめるよう求めている。
Thatcher & Patel (2012, p. 982) は、測定の方法にもまだ合意がないと述べる。同論文 (p. 979) によれば、原典は強さの理論的な裏づけを与えたが測り方は示さなかったため、測定をめぐる議論が続いている。Meyer & Glenz (2013, p. 394) は、測定法が8通りあってどれにも欠点があり、研究間の比較も難しいと述べる。両者が同じデータで比べると、どの指標にも長所と短所があり、最もよく使われる指標(fau)は下位集団が三つ以上あると値が急に下がった (p. 412)。多くの指標は、そうした場合にフォルトラインの強さを過小評価しやすい (p. 414)。結果についても、Thatcher & Patel (2012, p. 995) は知見が常に一貫しているわけではないと認めている。たとえば、Lau & Murnighan (2005) は強いフォルトラインが関係対立を減らすことを見いだした (p. 985)。フォルトラインの悪影響は、上位の集団アイデンティティや多様性を肯定する信念などによって弱まる (p. 989)。
研究上の位置づけ
Demographic diversity and faultlines: The compositional dynamics of organizational groups
出典
- 原典Lau, D. C., & Murnighan, J. K. (1998). Demographic diversity and faultlines: The compositional dynamics of organizational groups. Academy of Management Review. DOI ↗
- Jehn & Bezrukova (2010). The faultline activation process and the effects of activated faultlines on coalition formation, conflict, and group outcomes. Organizational Behavior and Human Decision Processes. ↗
- Thatcher & Patel (2012). Group faultlines: A review, integration, and guide to future research. Journal of Management. ↗
- Meyer & Glenz (2013). Team faultline measures: A computational comparison and a new approach to multiple subgroups. Organizational Research Methods. ↗
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