理論・視点

ダイバーシティ・パースペクティブDiversity Perspectives

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

職場の多様性が成果につながるかどうかは、多様性の量だけでは決まらず、その集団のメンバーが多様性をどう意味づけ、仕事にどう活かすべきものと考えているか(ダイバーシティ・パースペクティブ)によって左右される、とする理論。

目次
説明したい問い同じように人種や文化が多様な職場でも、多様性が学びと成果につながる職場と、緊張や分断を生む職場があるのはなぜか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

多様な人材を採用すれば、組織は自然と創造的になり、成果も上がるのだろうか。研究の結果はまちまちで、多様性が成果を高める場合もあれば、対立や離職を増やす場合もある。多様性の効果を分けるものは何なのか。

02

主張とメカニズム

「ダイバーシティ・パースペクティブとは、文化的な多様性と、それが自分たちの職場集団で果たす役割について、メンバーが抱いている規範的な信念と期待である」。Ely & Thomas (2001) はこう定義した。多様性をなぜ、何のために求めるのかという理由づけを含む、集団の考え方である。それは言葉や文書の方針として明示されることもあれば、部下の扱い方や仕事の組み立て方の背後にある暗黙の前提として現れることもある。二人は、文化的に多様な三つの専門サービス企業で、主に人種に焦点を当てて、聞き取りと職員会議の観察を行い、この考え方に三つの型があることを見いだした。

一つ目は統合と学習の視点である。メンバーがそれぞれの文化的な集団の一員として培ってきた洞察や技能、経験を、中心的な仕事を考え直し、市場や製品、戦略、仕事の進め方を定義し直すための資源とみなす。二つ目はアクセスと正統性の視点である。多様な顧客や市場に近づき、そこで正統だと認められるために多様性を求める。少数派のメンバーは、自分と同じ属性の顧客を担当するなど特定の分野に配置されやすく、その知識は組織の中心的な仕事には取り込まれにくい。三つ目は差別と公正の視点である。多様性を、平等な扱いと差別の排除という道義的な要請として捉える。人種による違いを見ないようにすることが公正とされるため、少数派のメンバーは多数派に同化するよう求められやすい。

三つの視点は、いずれも多様化を後押ししうるが、職場集団の過程と成果への影響は異なっていた。原典の分析では、統合と学習の視点をもつ集団で、違いから生じる対立を率直に話し合い、メンバーが能力と貢献を尊重されていると感じ、有色人種のメンバーは人種的なアイデンティティを仕事の価値の源と捉えていた。そして、多様性から継続的な利益が得られていた。他の二つの視点のもとでは、少数派のメンバーが自分を活かせないと感じたり、集団内に緊張が生じたりしやすかった。

03

身近な例

たとえば、ある会社が海外出身の社員を採用するとしよう。アクセスと正統性の視点に立つ会社では、その社員はもっぱら出身国の顧客の担当に回され、社内の商品開発の議論には呼ばれない。差別と公正の視点に立つ会社では、「国籍で区別しない」ことが大切にされ、その社員も他の社員とまったく同じやり方で働くよう求められる。統合と学習の視点に立つ会社では、その社員の経験から「わが社の商品説明は、前提となる知識を持たない人には分かりにくい」といった指摘が出たとき、それを全社の仕事のやり方を見直すきっかけとして扱う。

04

主要概念

ダイバーシティ・パースペクティブ(diversity perspective)
文化的な多様性と、それが職場集団で果たす役割について、メンバーが抱く規範的な信念と期待。
統合と学習の視点(integration-and-learning perspective)
メンバーが文化的な集団の一員として培った洞察や技能、経験を、中心的な仕事や仕事の進め方を見直し学ぶための資源とみなす考え方。
アクセスと正統性の視点(access-and-legitimacy perspective)
多様な市場や顧客に近づき、そこで正統性を得る手段として多様性を求める考え方。
差別と公正の視点(discrimination-and-fairness perspective)
多様性を、平等な扱いと差別の排除という道義的な要請として捉える考え方。
05

代表的な展開研究

  • van Knippenberg, D., De Dreu, C. K. W., & Homan, A. C. (2004). Work group diversity and group performance: An integrative model and research agenda. Journal of Applied Psychology. DOI ↗多様性が課題に関する情報の精緻な検討(情報の交換・処理・統合)を通じて成果を高める経路と、社会的カテゴリー化が集団間バイアスに転じたときにその検討を妨げる経路とを統合したモデルを示した。
  • Homan, A. C., van Knippenberg, D., Van Kleef, G. A., & De Dreu, C. K. W. (2007). Bridging faultlines by valuing diversity: Diversity beliefs, information elaboration, and performance in diverse work groups. Journal of Applied Psychology. DOI ↗男女2人ずつの学生からなる4人集団を使った実験を行った。性別、(偽の)性格診断の結果、座席の三つを完全に重ねて、すべての集団にフォルトライン(複数の属性の違いが重なり、集団が下位集団に分かれやすくなる状態)をつくった。そのうえで、課題の情報をメンバーで分けて配るか全員に同じものを配るか(情報の多様性)と、性別の多様な集団の方が成果が高いという研究結果を読ませるか同質な集団の方が高いという研究結果を読ませるか(多様性についての信念)を操作した。情報が多様な集団では、多様性を価値あるものとみなす信念を与えられた方が、情報の精緻な検討が多く、成果も高かった。この信念の効果は、情報の精緻な検討を通じて現れていた。情報が同質な集団では、信念による差はなかった。ただし著者らは、フォルトラインはすべての集団で一定だったので、この結果をフォルトラインの効果についての結論とみなしてはならないとし、学生の即席の集団で得られた結果であることにも注意を促している。
06

批判と境界条件

Ely & Thomas (2001, p. 269) は、自分たちのデータ収集の設計は理論を検証するのではなく生み出すためのものであり、提示した構成概念どうしのつながりは必然的に推測にとどまると認めている。視点とたまたま一緒に変わっていた文脈要因の影響も、切り分けられない (p. 269)。とくに、統合と学習の視点が見られた集団は4人と7人と小さく、メンバーの職業上の地位も比較的そろっていた。このため、集団の規模と地位の構成が視点と交絡している可能性がある (p. 269)。視点が多様性の効果を媒介するという仮説は、他の組織のサンプルで検証し、精緻にする必要があるとされた (p. 269)。

調べた組織の偏りも、著者ら自身が挙げている。三つの組織はいずれも、有色人種のコミュニティに関わる社会的・経済的な目標をもっていた。使命が多様性と結びつきにくい企業でも同じ利益が得られるかを、直接確かめるデータはない (p. 268)。また、三つの組織はいずれも積極的差別是正措置に比較的成功していた。そうした水準の多様性に達していない組織で視点がどう働くかは、まだはっきりしない (p. 269)。なお、分析は主に人種に絞られたが、著者らは、他の文化的アイデンティティの多様性にも多くを一般化できるはずだと述べている (p. 236)。

視点の数と測り方にも課題が残る。著者らは三つ以外の視点を見いださなかったが、ほかの視点や、一つの視点が支配せず混ざり合ったり競合したりする集団もありうると述べる (p. 269)。どの視点も、それだけを見れば立派な目標に訴えるため、リッカート尺度の質問紙で賛否を尋ねるのは不適切だとし、行動のやりとりの観察と自由回答の内容分析を勧めている (p. 270)。van Knippenberg & Schippers (2007, p. 531) の整理によれば、多様性についての考え方(ダイバーシティ・マインドセット)の研究は、それが多様性の効果を調整する役割を検証するより、測定尺度の開発と先行要因の研究に集中してきた。

それでも van Knippenberg & Schippers (2007, p. 531) は、多様性を好ましいものとし、その利益の実現の仕方を示す考え方が、より肯定的な多様性の効果と結びつくという証拠もあるとする。例として、当時投稿中だった Ely と Thomas の論文が、学習に焦点を当てた銀行の支店ほど人種の多様性が業績と正に関係することを示したと紹介している (pp. 531–532)。この研究の流れはまだ初期の段階だが、有望だと評価されている (p. 532)。また Ely & Thomas (2001, p. 260) は、差別への関心や、市場への接近と正統性のために多様性を使うことが不当だと言っているのではなく、それだけを多様性の戦略の主な根拠にすると集団の効果が損なわれうる、と注記している。

研究上の位置づけ

原典Ely, R. J., & Thomas, D. A. (2001)
Cultural diversity at work: The effects of diversity perspectives on work group processes and outcomes
分類モデル・枠組み
分析単位チーム · 組織
理論系譜社会学 · 心理学
REFERENCES

出典

  • 原典Ely, R. J., & Thomas, D. A. (2001). Cultural diversity at work: The effects of diversity perspectives on work group processes and outcomes. Administrative Science Quarterly. DOI ↗

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。