科学的管理法Scientific Management
一言で言うと仕事の速さや手順、働く人の選び方と払い方を、伝統や勘ではなく研究と実験で確かめた事実にもとづいて決めるべきだとする、Taylor が唱えた管理の考え方。時間・動作研究、標準化、毎日の課業、金銭の割増、科学的選抜、休憩などの技法からなる。
中核的な問い
一日にどれだけの仕事をするのが妥当なのか。Locke (1982) によれば、Taylor より前には、仕事をどの速さで行うべきかを決める客観的な方法がなく、多くの管理者は過去の経験を目安にしていた。仕事の速さややり方、働く人の選び方や払い方を、伝統や勘ではなく事実にもとづいて決めることはできるのか。
主張とメカニズム
Locke (1982) によれば、Taylor の考え方には二つの柱がある。一つは科学的な意思決定で、伝統や経験則、当て推量、前例、個人の意見ではなく、研究や実験で確かめた事実にもとづいて決めることを指す。もう一つは労使の関係で、Taylor は労使の利害は根本では同じだと考えた。経営が仕事に科学的に取り組めば、生産が増え、コストが下がり、賃金が上がって、双方が得をするという。
そのための技法として Locke が挙げるのは次のものである。時間・動作研究では、作業を要素となる動作に分け、無駄な動作を除いて「唯一最善の方法」で行えるようにし、残った動作の時間を測って妥当な一日の作業量を決める。道具と手順は、実験で最も効果があると分かった設計にそろえる。そのうえで一人ひとりに、毎日一定の量と質の仕事を割り当てる。Taylor はこれを課業(task)と呼んだ。働く人には、課業を達成できたかどうかが少なくとも毎日知らされた。さらに Taylor は、科学的管理法の原則どおりに仕事をすることを身につけ、課業を規則的に達成した人には、30〜100%高い賃金を払うべきだとした。このほか、集団ではなく個人単位の仕事と報酬、管理者の責任による訓練、適性の高い「一流」の人を選ぶ科学的選抜、仕事のきつさに応じた労働時間の短縮と休憩がある。
Locke は、科学的な意思決定と、時間・動作研究、標準化、目標の割り当て、金銭による動機づけ、訓練、科学的選抜、労働時間の短縮、休憩について、Taylor の見方は本質的に正しく、広く受け入れられたと評価した。課業はおおむね目標にあたり、今日の目標設定の先駆けだったという。一方、労使の協調と個人単位の仕事については、おそらく部分的にしか正しくなく、受け入れられたのも部分的にとどまるとした。
原典の事例
Wrege & Perroni (1974) によれば、Taylor が1911年の著書で語ったベスレヘムの銑鉄運びの話は、60年にわたって論文や教科書で引かれてきた。その話では、約92ポンドの銑鉄を担いで貨車に積む作業で、一人の一日の積み込み量は12.5ロングトンだった。Taylor は、一流の作業者なら47〜48トンを運べるはずだと割り出した。そこで4人を選んで性格や習慣を調べ、「シュミット」と呼ぶ一人を選び、監督者の合図どおりに運んでは休むように働かせたという。
身近な例
たとえば、物流倉庫のアルバイトを考えよう。新しく来た現場責任者が、ベテランのやり方をそのまま引き継ぐのをやめ、ピッキングの作業を「棚まで歩く」「商品を取る」「スキャンする」に分けてストップウォッチで測った。歩く距離が短くなるよう棚の並びと手順をそろえ、一人ずつ一時間あたりの件数を決めて、毎日の終わりに達成したかを伝え、達成した人には時給を上乗せした。これは時間研究にもとづく課業と割増賃金の組み合わせにあたる。ただし、達成者が増えたとたんに件数を引き上げれば、働く人は測られること自体を警戒するようになる。Locke によれば、Taylor はこうした賃率の切り下げをはっきり戒めていた。
主要概念
- 科学的管理法(scientific management)
- Taylor が創始した管理の考え方。Locke (1982) によれば、その名は伝統的な管理の非科学的なやり方と対比するためのもので、事実にもとづく意思決定を核とする。
- 時間・動作研究(time and motion study)
- 作業を要素となる動作に分け、無駄な動作を除き、残った動作の時間を測って、妥当な一日の作業量を決める方法(Locke, 1982)。
- 課業(task)
- 時間研究にもとづいて一人ひとりに毎日割り当てる、一定の量と質の仕事。Locke (1982) は、おおむね目標にあたる語だとする。
- 組織的怠業(systematic soldiering)
- 働く人が非公式の規範によって生産を抑えること。Locke (1982) によれば、Taylor は集団の仕事と報酬が個人の生産性を損なう例としてこれを挙げ、その解消を科学的管理法の主な目的の一つとした。
代表的な展開研究
- Locke, E. A. (1982). The ideas of Frederick W. Taylor: An evaluation. Academy of Management Review. DOI ↗Taylor の考え方と技法を一つずつ取り上げ、その妥当性と今日の経営での受け入れられ方を評価し、Taylor への主な批判の大半は当たらないと論じた。
- Wrege, C. D., & Perroni, A. G. (1974). Taylor's pig-tale: A historical analysis of Frederick W. Taylor's pig-iron experiments. Academy of Management Journal. DOI ↗Taylor の文書や、実際に調査を行った Gillespie と Wolle の報告書を調べ、銑鉄運びの話は事実より作り話に近いと結論した。
批判と境界条件
Locke (1982) は、Taylor への批判のうち、動機づけの見方が単純すぎる、社会的な要因を無視した、権威主義的、人を機械のように扱った、労働者を搾取した、反組合的、不誠実、という批判を大部分または全く誤りとした(p. 22)。たとえば、ホーソン研究のバンク配線観察室が見いだしたとされる非公式の規範による生産の抑制を、Taylor は数十年前に組織的怠業と呼んで特定していた(p. 18)。Locke が紹介する、自身と学生による現場研究の分析(主にブルーカラーを対象とした研究)では、業績の改善は、個人別の報奨制度で中央値30%、具体的で難しい目標の割り当てで平均16%だった(p. 18)。
それでも Locke は、専門化の行き過ぎという批判は部分的に当たっているとした(p. 22)。極端な専門化は退屈や意欲の低下を招くという職務充実の論者の指摘にはある程度の妥当性があり、技術の変化が速い時代には一人が複数の仕事をこなせるほうが実際的である(p. 19)。職長の役割を機能別に分ける Taylor の案は受け入れられておらず、おそらくあまり実際的でない(p. 19)。時間研究に残る主観的な要素の問題も、働く人の抵抗も解決していない(p. 15)。
Wrege & Perroni (1974) は、実際に調査を行った Gillespie と Wolle の1899年の報告書などと突き合わせ、銑鉄運びの話は事実より作り話に近いと結論した(p. 7)。Taylor は1901年、1903年、1911年と、話すたびに内容を変えていた(pp. 8–11)。Taylor は8万トンの銑鉄を積み出したとしたが、報告書では売れた銑鉄は全部で1万トンだった(pp. 11–12)。「シュミット」(本名 Henry Noll)は科学的に選ばれたのではなく、出来高払いに志願した人たちのうち最初から残り続けた唯一の人だった(pp. 15–17)。休憩として数えられていたのは手ぶらで戻る歩きで、座って休む休憩はなかったという(p. 22)。これに対し Locke (1982, pp. 20–21) は、Taylor の三つの説明は強調点と詳しさが違うだけで矛盾しないとし、著書には歩いて戻る時間とは別に座って休ませたという記述もあると反論した。ただし Locke も、鉄の量などの細部では Taylor が誤っていたと認め(意図的な欺きではなく記憶違いの可能性があるとした)、シュミットが科学的に選ばれたのではないという指摘も、報告書に漏れがない限り正しいようだとしている。そのうえで、Taylor のいう「一流」の作業者が能力だけでなく意欲も高い人を指すなら、シュミットを選んだことは Taylor の考え方と矛盾しないとした(p. 21)。
研究上の位置づけ
The Principles of Scientific Management
出典
- 原典Taylor, F. W. (1911). The Principles of Scientific Management. Harper.
- Gillespie & Wolle (1899). Report on the establishment of piecework in connection with the loading of pig-iron, at the works of the Bethlehem Iron Co.(未刊行の報告書)
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