ホーソン研究(人間関係論)Hawthorne Studies and the Human Relations Movement
別名ホーソン実験
一言で言うと1924年から1932年にかけて米国ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の調査と、そこから導かれた、作業量を左右するのは物理的・経済的な条件よりも職場の人間関係や監督のあり方だという結論。人間関係論の拠り所となったが、後の再検討では、証拠は結論を支えていないとされる。
中核的な問い
職場の照明を明るくしたり、休憩を増やしたり、賃金の払い方を変えたりすれば、作業量は上がるのか。それとも、作業量を左右するのは職場の人間関係や監督のあり方なのか。ホーソン研究は、この問いに米国の工場で8年ほどかけて取り組んだ一連の調査である。
原典の事例
Hassard (2012) によれば、調査は1924年から1932年にかけて、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われ、1928年からはハーバード・ビジネス・スクールのメイヨーも加わった。Franke & Kaul (1978) の整理では、最初は照明の明るさと作業量の関係を調べる照明実験(1924〜27年)だった。二人が原典の報告をもとにまとめた概説では、照明を明るくしても暗くしても、作業量と仕事の満足はなぜかおおむね上がったとされる。そこで会社とハーバードの研究者たちは、物理的な条件だけでなく社会的な要因も調べ始めた。もっとも、この照明実験の作業量の記録を初めて統計的に分析した Levitt & List (2011) は、作業量が照明の変更にすぐ反応して上がったという主張はデータに支えられないとしている(「批判と境界条件」を参照)。
中心となったのはリレー組立実験室である。電話用のリレーを組み立てる女性5人を別室に移し、2年以上にわたって作業量を記録しながら、休憩、労働時間、賃金の支払い方、監督のしかたなどを次々に変えた(Carey, 1967)。変更は積み重ねて加えられ、対照群は置かれなかった。2年後、作業量は約30%増えていた。続いて、賃金の払い方だけを変えた第2リレー組立実験、賃金を変えずに休憩や労働時間を変えた雲母はがし実験、面接調査、男性14人の作業を観察したバンク配線観察室の研究が行われた(Franke & Kaul, 1978)。
主張とメカニズム
Carey (1967) によれば、研究者たちは調査を始めて1年以上たったころ、予想していなかった結論に達した。働く人どうしのつながりから生まれる社会的な満足のほうが、当初注目していた物理的・経済的な条件のどれよりも、作業量を強く左右するというものである。リレー組立実験室の作業量の伸びも、物理的な条件の変化ではなく、監督のしかたが変わったことで生まれた従業員の「心的態度」の変化によるとされた。Carey が引用する Roethlisberger & Dickson (1939) は、リレー組立実験室を含む三つの実験のどの結果も「働く人は主に経済的な利害で動く」という見方を少しも裏づけず、賃金の効果は他の要因と切り離せないと結論している。
Franke & Kaul (1978) の要約では、研究者たちは、測った実験条件の効果は小さく、作業量の伸びの大半は、測られていない管理者や仲間との人間関係の質によると考えた。面接調査とバンク配線観察室の研究からは、働く人が非公式の集団をつくり、仕事のペースを抑えることがあると報告された。Hassard (2012) によれば、この研究は長く人間関係アプローチの拠り所とされ、科学的管理法の前提に異を唱えた研究として扱われてきた。
身近な例
たとえば、売上の落ちた夜のシフトを任された飲食店の店長がいるとしよう。店長は毎晩スタッフに声をかけ、相談に乗るようにした。同じ時期に、チームの売上に応じた手当を始め、遅刻の多かったアルバイト2人を別の時間帯に回して、意欲の高い2人を入れた。3か月後、夜の売上は伸びた。店長が「雰囲気が良くなったからだ」と考えるのは、ホーソン研究の研究者たちの人間関係による説明にあたる。しかし手当の変更も人の入れ替えも同時に起きていて、どれが効いたのかはこの経験だけでは分からない。ホーソン研究への批判は、この点を突いた。
主要概念
- 人間関係論(human relations)
- ホーソン研究の後に続いた、集団、動機づけ、従業員の満足についての行動科学の研究の流れ。Hassard (2012) によれば、組織行動論の教科書などではこの呼び名が研究の流れを指す略称として使われ、科学的管理法の後を継ぐ動きとして繰り返し説明されてきたが、この見方には異論も多い。
- リレー組立実験室(Relay Assembly Test Room)
- 電話用のリレーを組み立てる女性5人を別室に移し、休憩、労働時間、賃金の払い方、監督のしかたを変えながら作業量を記録した実験。Carey (1967) によれば、ホーソン研究の中心の実験で、後の面接調査と観察研究は、この実験などから得た結論をもとに行われた。
- 管理者による規律(managerial discipline)
- Franke & Kaul (1978) が再分析で使った変数で、管理者がリレー組立実験室の5人のうち2人を入れ替えたことを指す。入れ替えで入った1人は、仲間の作業を仕切る役(straw boss)も担った。二人の分析では、作業量の変動を最もよく説明した要因だった。
- ホーソン効果(Hawthorne effect)
- Franke & Kaul (1978) が引く Roethlisberger (1941) の説明では、実験されている人はそのことに気づくため、実験や実験者に対する態度が、その人の反応を左右する重要な要因になる、という考え。Franke & Kaul は、この概念を誤り、または誤解を招くと判断した研究者もいると記す。一方、Hassard (2012) によれば、Gillespie (1991) は、研究者たちはこうした影響を調査の初日から知っていたと論じている。Levitt & List (2011) は、ホーソン効果には厳密な定義がなく、それが検証を難しくしていると指摘する。
代表的な展開研究
- Carey, A. (1967). The Hawthorne studies: A radical criticism. American Sociological Review. DOI ↗原典の報告に示された証拠と結論を突き合わせ、結論はほとんど証拠に支えられておらず、証拠はむしろ金銭的な報酬の影響と整合すると論じた。
- Franke, R. H., & Kaul, J. D. (1978). The Hawthorne experiments: First statistical interpretation. American Sociological Review. DOI ↗リレー組立実験室の元データを時系列の重回帰分析で初めて分析し、作業量の変動の大半が管理者による規律、大恐慌、休憩時間で説明できることを示した。
- Hassard, J. S. (2012). Rethinking the Hawthorne Studies: The Western Electric research in its social, political and historical context. Human Relations. DOI ↗会社の福祉資本主義や反組合的な姿勢、大恐慌などの文脈を史料から描き、人間関係の「発見」という教科書の物語に疑問を投げかけた。
批判と境界条件
Carey (1967) は、報告された証拠と結論を突き合わせ、結論はほとんど証拠に支えられていないと論じた(p. 403)。賃金の払い方だけを変えた第2リレー組立実験では、作業量はすぐに12.6%増えたが、ほかの従業員の不満から9週間で打ち切られると16%下がった。研究者たちはこれを、裏づけをほとんど示さないまま集団間の対抗意識によるとした(p. 406)。研究者たちが挙げた雲母はがし実験の約15%の伸びは1時間あたりの作業量で、週の労働時間は17%減っていたため、週の総量では伸びていなかった(p. 408)。リレー組立実験室では、協力的でないとされた2人が8か月後に「重大な不服従」と作業量の低下・横ばいを理由に外され、職長が選んだ2人に入れ替わった。新しい2人は、前の2人をはるかに上回る作業量をすぐに出した(p. 411)。Carey は、監督が友好的になったのは作業量が上がった結果である可能性も指摘し(p. 415)、5人では少なすぎて統計的に信頼できる結果は得られないとした(p. 416)。証拠はむしろ、金銭的な報酬が主な影響だという見方と合っているという(p. 403)。ただし Carey 自身、この研究はどんな一般化も支えられないとも述べている(p. 416)。
Franke & Kaul (1978) は、元の記録を使い(p. 627)、リレー組立実験室の23期間のデータを時系列の重回帰分析で初めて統計的に分析した。1時間あたりの作業量の変動のうち、79%は2人の入れ替えという管理者による規律で、さらに14%は大恐慌で、4%は予定された休憩時間で説明できた(p. 630、モデル1)。二人は、作業量を上げたのは抑圧的な監督からの解放ではなく、監督の再強化だったと解釈し、大恐慌で職を失う危険が高まったことが寄与した可能性も挙げた(p. 636)。人道的な取り組みが経済的な利益を生むという主張を支えたのは休憩の小さな効果だけで、説明されずに残る変動はわずかだったことから、測られていない監督や人間関係の要因は経済的にはあまり重要でなかったとした(pp. 636–637)。ただし、参加型の経営などには、ここで扱った基準を超える利点がありうるとも述べる(p. 638)。
Hassard (2012) は、実験の中身ではなく、調査が行われた会社の文脈を史料から描き直した。ホーソン工場は病院や夜間学校、従業員クラブなどを備えた福祉資本主義の工場として知られ、その背景には労働組合の台頭を防ぐ狙いもあった(p. 1438)。1924年5月の監督者向けの方針には、すでに「会社は大きくなるほど、より人間的でなければならない」と書かれていた(pp. 1446–1447)。Hassard は、メイヨーらは工場の流れを変えたのではなく、その流れに乗ったと論じる(p. 1447)。会社の反組合的な姿勢や監視が面接調査の結果をゆがめたこと(p. 1451)、バンク配線観察室の研究を「不況の話ではない」とする原典の立場は考えにくいこと(p. 1450)も指摘した。
Levitt & List (2011) は、失われたとされていた照明実験の記録を大学の図書館などで見つけ、3部屋分のデータを初めて統計的に分析した(p. 226)。照明を上げても下げても作業量が上がったという、これまで語られてきた驚くべきデータの動きは「まったくの虚構」だったという(pp. 224, 226)。生データを素朴に見るとそう見えるのは、照明の変更がすべて、唯一の休業日である日曜に行われていたからにすぎない(p. 226)。作業量は金曜や土曜より月曜に高いが、照明を変えなかった月曜も同じくらい高く、研究者たちは曜日の効果をホーソン効果と取り違えたらしい(p. 226)。一方、実験中の部屋の作業量の伸びが工場全体よりはるかに大きいなど、より微妙なホーソン効果と合う弱い証拠はあった(pp. 226–227)。ただし実験の設計が粗く、分かることには限りがあるという(p. 227)。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Roethlisberger, F. J., & Dickson, W. J. (1939). Management and the Worker. Harvard University Press.
- Roethlisberger (1941). Management and Morale. Harvard University Press.(書籍)
- Gillespie (1991). Manufacturing Knowledge: A History of the Hawthorne Experiments. Cambridge University Press.(書籍)
- Levitt & List (2011). Was there really a Hawthorne effect at the Hawthorne plant? An analysis of the original illumination experiments. American Economic Journal: Applied Economics. ↗
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