基本戦略とバリューチェーンGeneric Strategies and the Value Chain
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと競争優位は、コストを他社より低くするか、他社と違う価値を提供するかのどちらかから生まれる。その源泉は、企業が行う一連の活動(バリューチェーン)の中にある、とする枠組み。
目次
中核的な問い
ファイブ・フォースは、どの業界が儲かりやすいかを説明した。しかし同じ業界の中でも、利益を上げる企業とそうでない企業がある。業界の中で、企業はどうやって優位な立場を築くのか。
主張とメカニズム
Campbell-Hunt (2000) によれば、Porter (1985) は、競争優位には基本的に二つのタイプがあるとした。低いコスト(コスト・リーダーシップ)と、顧客が高い価格を払ってもよいと思う独自性(差別化)である。これに、業界全体を狙うか、特定の顧客層や地域に絞るか(集中)という競争の範囲を組み合わせ、基本戦略を整理した。Campbell-Hunt (2000) が整理するように、この理論は二つの要素からなる。競争の範囲と優位の源泉によって企業の戦略を記述する枠組みと、コストと差別化のどちらかを選ばない企業は業績が劣るという命題である。後者は「スタック・イン・ザ・ミドル(窮地に立つ)」仮説と呼ばれる。
さらに、優位の源泉を具体的に探る道具がバリューチェーンである。Porter & Millar (1985) によれば、バリューチェーンは企業の活動を、購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスという主活動と、調達、技術開発、人事管理、企業インフラ(全般管理、法務、経理など)という支援活動の、九つの基本的な区分に分ける。コスト面の優位も差別化も、個々の活動がそれにどう寄与するかで決まるので、どの活動でコストを下げ、どの活動で独自性を生むかを分析する。また、ある活動のやり方がほかの活動のコストや効果に影響する、活動どうしのつながり(連結)を注意深く管理することが、しばしば競争優位の強力な源泉になるとしている。
身近な例
格安航空会社は、座席の指定や機内食を有料にし、機材を統一して整備を効率化するなど、多くの活動をコスト削減に合わせている。一方、高級ホテルは、接客やサービスの活動に投資して差別化を図る。同じ「移動」や「宿泊」でも、活動の組み立て方がまったく違う。
主要概念
- コスト・リーダーシップ(cost leadership)
- 競合より低いコストを実現して優位を得る戦略。
- 差別化(differentiation)
- 顧客が価値を認める独自の特徴を提供し、高い価格を得る戦略。
- 集中(focus)
- 特定の顧客層や地域、製品分野に的を絞って、コストか差別化で優位を築く戦略。
- バリューチェーン(value chain)
- 企業の活動を主活動と支援活動に分け、価値とコストの生まれる場所を分析する枠組み。
代表的な展開研究
- Hill, C. W. L. (1988). Differentiation versus low cost or differentiation and low cost: A contingency framework. Academy of Management Review. DOI ↗差別化が需要や規模を通じて低コストにもつながり、両方を同時に追える場合があると論じた。
- Campbell-Hunt, C. (2000). What have we learned about generic competitive strategy? A meta-analysis. Strategic Management Journal. DOI ↗競争戦略に関する17本の実証研究をメタ分析した。コストと差別化が戦略を分ける軸であることは支持されたが、特化した戦略ほど業績が高いという命題は支持されなかった。
批判と境界条件
Porter の理論の中心には、コスト・リーダーシップと差別化のどちらかを選ばない企業は業績が劣る、という命題(「スタック・イン・ザ・ミドル」仮説)がある。これには早くから反論があった。Campbell-Hunt (2000, pp. 127–128) の整理によれば、Hill (1988) らは、コスト優位を生む条件と差別化を生む条件は互いに独立しているうえ、差別化で市場シェアを広げれば規模や範囲の経済によってコストも下がるため、両方を組み合わせた戦略が有利になる場合もあると論じた。
Campbell-Hunt (2000) は、17本の実証研究をメタ分析した。コストと差別化が競争戦略を大きく分ける軸であること、両者を混ぜた戦略は比較的少ないことは支持された(p. 145)。しかし、どちらかに特化した戦略ほど業績が高いという命題は支持されなかった。スタック・イン・ザ・ミドルにあたる戦略が、他より業績が高いとも低いとも言えず、成長率ではむしろ特化型のほうが低かった(10%水準、pp. 148–149)。
ただし、分析した研究の業績指標は会計上の数値で、回答者の自己評価によることが多く、測定期間も5年程度と短い。そのため Campbell-Hunt 自身、この結果は慎重に扱うべきで、理論の誤りを決定づけるものではないとしている(pp. 146, 149)。そのうえで、どのような条件でどちらの戦略が報われるかを問う条件適合的な見方が有望だと述べた(p. 149)。
研究上の位置づけ
Competitive advantage: Creating and sustaining superior performance
出典
- 原典Porter, M. E. (1985). Competitive advantage: Creating and sustaining superior performance. Free Press.
- Porter & Millar (1985). How information gives you competitive advantage. Harvard Business Review, 63(4), 149–160. ↗
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