理論・視点

離脱・発言・忠誠Exit, Voice, and Loyalty

別名退出・告発・ロイヤルティ

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

企業や組織、国家の質が落ちたとき、顧客やメンバーは「離脱」するか「発言」するかで反応し、その反応が組織に立て直しを促す。忠誠は離脱を思いとどまらせ、発言を引き出す、とする理論。

目次
説明したい問い組織の質が低下したとき、人々はどう反応し、その反応は組織の回復にどう役立つのか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

どんな企業や組織も、ときに製品やサービスの質を落とす。こうした衰退は、多くの場合、立て直しが可能な一時的な失敗である。では、組織の経営者は、どのようにして自らの失敗に気づき、立て直しに向かうのか。その手がかりとなるのは、不満をもった顧客やメンバーの反応である。

02

主張とメカニズム

Dowding et al. (2000) の整理によれば、Hirschman (1970) は、質の低下に対する反応を二つに分けた。離脱とは、顧客がその企業の製品を買うのをやめたり、メンバーが組織を去ったりすることである。発言とは、「好ましくない状態から逃げ出すのではなく、それを変えようとするあらゆる試み」であり、経営者や上位の権威に直接不満を伝えたり、広く抗議したりすることを含む。

離脱は、売上や会員数の減少という形で経営者に問題を知らせる。これは市場の仕組みであり、経済学が得意としてきた領域である。発言は、何が問題なのかを言葉で伝える。これは政治の仕組みであり、経済学ではあまり扱われてこなかった。Hirschman は、二つの仕組みはどちらか一方だけでは不十分で、組合せが重要だと論じた。たとえば、質に敏感な人ほど早く離脱してしまうと、組織は最も有益な発言を失う。

忠誠は、組織への特別な愛着である。忠誠があると、人はすぐには離脱せず、とどまって発言しようとする。Hirschman は、離脱の可能性が残っているからこそ、発言には影響力が生まれるという関係も論じた。

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身近な例

たとえば、行きつけの定食屋の味が落ちたとしよう。ある客は黙って来なくなる(離脱)。ある客は店主に「最近、味が変わった気がする」と伝える(発言)。長年通ってきた客は、ほかの店に移る前に、もう少し様子を見ながら声をかけ続けるかもしれない(忠誠)。黙って客が減るだけなら、店主は何が悪いのか分からない。声が届けば、原因を探して直すことができる。

04

主要概念

離脱(exit)
顧客が購入をやめたり、メンバーが組織を去ったりすること。
発言(voice)
好ましくない状態から逃げずに、それを変えようとする試み。
忠誠(loyalty)
組織への特別な愛着。離脱を思いとどまらせ、発言を引き出す。
回復メカニズム(recuperation mechanisms)
組織が質の低下に気づき、立て直しに向かうよう促す仕組み。離脱と発言がその代表である。
05

代表的な展開研究

  • Farrell, D. (1983). Exit, voice, loyalty, and neglect as responses to job dissatisfaction: A multidimensional scaling study. Academy of Management Journal. DOI ↗Rusbult et al. (1982) などにならって、職務への不満に対する反応に「怠慢(neglect)」を加え、離脱・発言・忠誠・怠慢の四つとして整理した。多次元尺度法により、四つの反応が「能動的か受動的か」「建設的か破壊的か」の二つの次元で位置づけられることを示した。
  • Rusbult, C. E., Farrell, D., Rogers, G., & Mainous, A. G., III (1988). Impact of exchange variables on exit, voice, loyalty, and neglect: An integrative model of responses to declining job status satisfaction. Academy of Management Journal. DOI ↗満足度、これまでの投資の大きさ、代わりの選択肢の質が、四つの反応のどれを選ぶかに影響することを示した。
06

批判と境界条件

Farrell (1983, p. 597) によれば、Hirschman (1970) の関心は、組織の働きに避けられず生じる「修復可能な失敗」を見つけることにあった。Farrell (1983, p. 598) は、不満をもった働き手が手を抜いたり無関心になったりする行動を Hirschman は明示的には扱っていないと指摘し、恋愛関係の研究 Rusbult, Zembrodt, & Gunn (1982) の用語にならって、これを「怠慢」と呼んだ。例として、遅刻、欠勤、ミスの増加を挙げている (p. 598)。Withey & Cooper (1989, p. 522) の整理によれば、怠慢は忠誠と違って関係の回復を目指さず、回復は起こらないと暗に受け入れた反応である。

Farrell (1983, p. 605) の多次元尺度法による分析では、不満へのさまざまな具体的な行動が四つのまとまりに分かれ、「能動的か受動的か」「建設的か破壊的か」の二つの次元で整理できた。ただし、Hirschman が建設的とみなした忠誠は、受動的でやや破壊的な反応と位置づけられた (pp. 604–605)。Farrell はその理由として、Hirschman の忠誠の定義が忠誠的な行動の微妙さ、特に能動的な形をとらえきれていない可能性と、対象者が経営学の大学院生だった影響を挙げた (pp. 605–606)。四つの概念はまだ暫定的なものだとも述べている (p. 605)。

Dowding et al. (2000, p. 476) によれば、忠誠は Hirschman の枠組みで最も批判されてきた概念である。Withey & Cooper (1989, p. 522) も、Hirschman は忠誠を、あるときは離脱と発言の使い方を左右する態度として、あるときは組織を支える行動として描いていると指摘した。二人の縦断調査では、忠誠を予測した要因はおおむね怠慢と同じで、忠誠は組織への支持よりも、組織に閉じ込められた状態に近かった (p. 536)。ただし二人は、態度と受け身の行動としての忠誠だけを測り、能動的な行動としての忠誠を含めなかったのは誤りだったと認めている (p. 536)。Dowding et al. (2000, p. 481) は、EVLN モデルが忠誠を、不満と離脱・発言の関係を左右する心理的な条件ではなく、離脱や発言と並ぶ行動の一つとして扱ったことを、概念として奇妙だと批判した。そのうえで、忠誠の強さを、その対象への同一化と、対象にこれまで注いできた投資の大きさからとらえる見方を示している (p. 477)。

Withey & Cooper (1989) のモデルでは、発言の予測が特に難しく、一つ目の標本では発言のばらつきの5%しか説明できず、二つ目の標本ではまったく説明できなかった (pp. 530, 532)。二人はその理由として、発言がいくつもの下位の要素を含む複雑なカテゴリーである可能性と、発言の効果が相手の反応に左右されることを挙げている (pp. 534–535)。Dowding et al. (2000, pp. 490–491) も、多くの実証研究で発言との関係は離脱より弱く、その主な理由は、Hirschman が個人での発言と集団での発言を区別しなかったことにあるとした。また、Hirschman の考え方では離脱と発言の両方をとることもできるのに、多くの研究は二者択一として扱ってきたと指摘した (p. 491)。

研究上の位置づけ

原典Hirschman, A. O. (1970)
Exit, voice, and loyalty: Responses to decline in firms, organizations, and states
分類モデル・枠組み
地図の区画組織・意思決定
分析単位個人 · 組織 · コミュニティ
理論系譜経済学 · 行動論
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。