離脱・発言・忠誠Exit, Voice, and Loyalty
一言で言うと企業や組織、国家の質が落ちたとき、顧客やメンバーは「離脱」するか「発言」するかで反応し、その反応が組織に立て直しを促す。忠誠は離脱を思いとどまらせ、発言を引き出す、とする理論。
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
どんな企業や組織も、ときに製品やサービスの質を落とす。こうした衰退は、多くの場合、立て直しが可能な一時的な失敗である。では、組織の経営者は、どのようにして自らの失敗に気づき、立て直しに向かうのか。その手がかりとなるのは、不満をもった顧客やメンバーの反応である。
主張とメカニズム
Hirschman (1970) は、質の低下に対する反応を二つに分けた。離脱とは、顧客がその企業の製品を買うのをやめたり、メンバーが組織を去ったりすることである。発言とは、「好ましくない状態から逃げ出すのではなく、それを変えようとするあらゆる試み」であり、経営者や上位の権威に直接不満を伝えたり、広く抗議したりすることを含む。
離脱は、売上や会員数の減少という形で経営者に問題を知らせる。これは市場の仕組みであり、経済学が得意としてきた領域である。発言は、何が問題なのかを言葉で伝える。これは政治の仕組みであり、経済学ではあまり扱われてこなかった。Hirschman は、二つの仕組みはどちらか一方だけでは不十分で、組合せが重要だと論じた。たとえば、質に敏感な人ほど早く離脱してしまうと、組織は最も有益な発言を失う。
忠誠は、組織への特別な愛着である。忠誠があると、人はすぐには離脱せず、とどまって発言しようとする。離脱の可能性が残っているからこそ、発言には影響力が生まれるという関係も示された。
身近な例
たとえば、行きつけの定食屋の味が落ちたとしよう。ある客は黙って来なくなる(離脱)。ある客は店主に「最近、味が変わった気がする」と伝える(発言)。長年通ってきた客は、ほかの店に移る前に、もう少し様子を見ながら声をかけ続けるかもしれない(忠誠)。黙って客が減るだけなら、店主は何が悪いのか分からない。声が届けば、原因を探して直すことができる。
主要概念
- 離脱(exit)
- 顧客が購入をやめたり、メンバーが組織を去ったりすること。
- 発言(voice)
- 好ましくない状態から逃げずに、それを変えようとする試み。
- 忠誠(loyalty)
- 組織への特別な愛着。離脱を思いとどまらせ、発言を引き出す。
- 回復メカニズム(recuperation mechanisms)
- 組織が質の低下に気づき、立て直しに向かうよう促す仕組み。離脱と発言がその代表である。
代表的な展開研究
- Farrell, D. (1983). Exit, voice, loyalty, and neglect as responses to job dissatisfaction: A multidimensional scaling study. Academy of Management Journal. DOI ↗職務への不満に対する反応に「怠慢(neglect)」を加え、離脱・発言・忠誠・怠慢の四つとして整理した。
- Rusbult, C. E., Farrell, D., Rogers, G., & Mainous, A. G., III (1988). Impact of exchange variables on exit, voice, loyalty, and neglect: An integrative model of responses to declining job status satisfaction. Academy of Management Journal. DOI ↗満足度、これまでの投資の大きさ、代わりの選択肢の質が、四つの反応のどれを選ぶかに影響することを示した。
批判と境界条件
原典は、組織の衰退が立て直し可能な一時的な失敗であることを前提にしており、回復の見込みがない衰退はおもな対象としていない。Farrell (1983) は、職務への不満に対する反応として、何もせずに関わりを減らしていく「怠慢」という受け身の反応があることを示し、原典の三つの分類ではこれが捉えられないことを明らかにした。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Hirschman, A. O. (1970). Exit, voice, and loyalty: Responses to decline in firms, organizations, and states. Harvard University Press.
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