理論・視点

バウンダリーレス・キャリアBoundaryless Career

別名バウンダリレス・キャリア

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

キャリアを一つの組織の中で昇進していくものとしてではなく、組織や職種の境界を越えて築かれていくものとして捉える視点。

目次
説明したい問い一つの会社の中だけで完結しないキャリアを、組織研究はどのように捉えればよいのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

かつてのキャリア研究は、人が一つの会社に入り、その中で階段を上るように昇進していくことを暗黙の前提にしてきた。しかし、この視点を唱えた研究者たちは、転職や独立、短期の契約による仕事が増え、この前提では多くの人のキャリアを説明できなくなったと考えた。組織の境界を越えて続いていくキャリアは、どのように理解できるのか。

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主張とメカニズム

Arthur (1994) は、バウンダリーレス・キャリアを「「境界づけられた」キャリア、つまり「組織キャリア」の反対語」として示した。Arthur はこの中にいくつもの意味を含め、その最も目立つものを、別々の雇用主の境界をまたいで移っていくキャリアとした。どの意味にも共通するのは、伝統的な組織キャリアの原則に頼らず、そこから独立していることである。この論文は、学会のシンポジウムから生まれた学術誌の特集号の導入論文である。組織キャリアの研究を否定するのではなく、キャリア研究の「もう一つの出発点」を示し、新しい研究を促すことをねらっていた。

この視点では、キャリアを支えるものが組織の外にも広がる。人は、勤め先の外の人とのつながりや、業界や職業の中での評判を通じて、次の仕事の機会を得る。また、キャリアを通じた学びはその人の雇用上の価値を高め、多く学んだ人ほど、別の会社でも雇われやすくなると考えられる。Arthur (1994) の紹介によれば、同じ特集号で DeFillippi & Arthur (1994) は、こうしたキャリアを支える能力(キャリア・コンピテンシー)の三つの領域について研究課題を示し、その能力がどう身につき、使われ、移されるのかを問うた。Sullivan & Arthur (2006) は、DeFillippi & Arthur (1996) に基づいて、この能力をなぜ働くのか、どう働くのか、誰とつながっているのかを知ることという三つの知り方として紹介している。

さらにこの視点は、キャリアと組織の関係の見方も変える。組織は人を長く抱え込む場としてだけでなく、人が行き来しながら学びを持ち込み、持ち出す場として捉えられる。個人のキャリアの動きが、企業や地域の産業に知識を広げる経路にもなると考えるのである。

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身近な例

たとえば、あるウェブデザイナーが、制作会社で数年働いたあと、事業会社のデザイン部門に移り、その後フリーランスとして独立したとしよう。仕事の多くは、以前の職場の同僚や取引先からの紹介で入ってくる。この人のキャリアは、どの一社の昇進の階段でも説明できない。複数の組織をまたぐ経験と人とのつながりの積み重ねとして見ると、その道筋が理解しやすくなる。

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主要概念

バウンダリーレス・キャリア(boundaryless career)
一つの雇用主の枠に収まらず、組織の境界を越えて展開するキャリア。
組織キャリア(organizational career)
一つの組織の中で、階層を上っていく形で展開すると考えられてきたキャリア。
物理的な移動(physical mobility)
実際に仕事や組織、職業、国を移ること。後の研究で心理的な移動と区別された。
心理的な移動(psychological mobility)
境界を越えて移ることができると本人が捉えていること(移る力についての本人の認識)。
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代表的な展開研究

  • DeFillippi, R. J., & Arthur, M. B. (1994). The boundaryless career: A competency-based perspective. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗同じ特集号の論文で、Arthur (1994) の紹介によれば、バウンダリーレス・キャリアを支える能力(キャリア・コンピテンシー)の三つの領域について研究課題を示し、その能力がどう身につき、使われ、移されるのかを問うた。
  • Sullivan, S. E., & Arthur, M. B. (2006). The evolution of the boundaryless career concept: Examining physical and psychological mobility. Journal of Vocational Behavior. DOI ↗後の研究として、実際に境界を越える物理的な移動と、越えられると感じる心理的な移動を区別し、概念を整理し直した。
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批判と境界条件

Inkson, Gunz, Ganesh & Roper (2012, p. 323) は、呼び名の不正確さ、定義のゆるさ、個人の主体性の強調しすぎ、実証的な裏付けの乏しさなど、五つの問題を挙げた。とくに「境界がない」という呼び方は、キャリアを定め理解するための重要な手がかりである境界を軽く扱いかねないという (p. 326)。彼らは Gunz & Mayrhofer (2010) に依拠して、境界はキャリアの中で三つの役割を果たすとする (p. 333)。境界は、人が選べる変化を制限し、地位の移り変わりに筋道を与えてキャリアを可能にし、節目となる目印を与えてキャリアを区切る (p. 333)。そのため、キャリアを「境界のない」型として分類するのではなく、境界がどのようにつくられ、越えられるのかを研究すべきだと主張した (pp. 331, 335)。

実証面について、Inkson et al. (2012, p. 329) は、多くの研究がこのキャリアは増えた、あるいは主流になったと述べながら、その証拠を示していないと指摘した。Rodrigues & Guest (2010, pp. 1162–1163) は、この点を勤続年数や離職の長期的な推移で確かめた。その結論は、米国・欧州・日本で勤続年数と離職は比較的安定しており、組織の境界を越える移動が大きく増えた証拠はないというものである (pp. 1167–1168)。しかも、この概念が主に想定してきた管理職や専門職は、市場の不安定さの影響を最も受けていないように見えるという (p. 1167)。

Sullivan & Arthur (2006, p. 22) は、概念を整理し直し、このキャリアを物理的な移動と心理的な移動の一方または両方を含むキャリアと定義した。物理的な移動は境界を越える移行そのもの、心理的な移動は移行できるという認識である (p. 21)。それまでの研究は測りやすい物理的な移動に偏り、心理的な移動を見落としてきたという (p. 21)。これに対して Rodrigues & Guest (2010, p. 1162) は、心理的な移動はあいまいで測定しにくいと批判した。また Arnold & Cohen (2008) の指摘を引き、まったく動かないキャリアでない限り、どのキャリアも境界のないキャリアに分類できてしまうと述べた (p. 1162)。

提唱者の Arthur (2014, p. 632) は、移動の水準が変わったかという論争 (Rodrigues & Guest, 2010 など) を、今後の実証で検討できる論点とした。また、DeFillippi & Arthur (1994) の定義は「単一の雇用の場の境界を越えていく仕事の機会の連なり」であり、物理的な移動ではなく仕事の機会に焦点を当てていたと強調した (p. 628)。雇用主の間の物理的な移動は、六つの意味のうちの一つにすぎなかったともいう (p. 628)。さらに、組織キャリアとの対比は出発点としてはまだ役立つが、今後は両者の統合へ進むべきだと述べた (p. 636)。批判した Inkson et al. (2012, p. 330) も、この研究がキャリア研究の関心を組織の内側から広げたことは認めている。Rodrigues & Guest (2010, p. 1170) も、自分たちの分析は概念を退けるためではなく、捉え直すためのものだとしている。

研究上の位置づけ

原典Arthur, M. B. (1994)
The boundaryless career: A new perspective for organizational inquiry
分類理論的視点
分析単位個人 · 組織
理論系譜社会学 · 心理学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。