Structural Holes and Good Ideas構造的空隙と優れたアイデア
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
集団の間の構造的空隙をまたぐ人ほど良いアイデアを出すという仮説を、アメリカの大手電子機器メーカーでサプライチェーンを担う管理職673人のデータで検証した論文。良いアイデアは集団の境目から生まれる一方、アイデアは主に身近な同僚とのあいだで話し合われており、その広がり方は組織の分断を維持する方向に働いていたことも論じた。
目次
研究上の問い
仲介(ブローカレッジ)が成果につながることは、それまでの研究で繰り返し示されていた。Burt が問うたのは、その仕組みである。意見や行動は、集団の内側では似通い、集団の間では異なる。そのため、集団をまたいでつながる人は、別の考え方や別のやり方をよく知っており、選んだり組み合わせたりできる選択肢が多い。集団の間の構造的空隙をまたぐ仲介は、他の人には見えない選択肢を見せてくれる。Burt は、これを仲介が社会関係資本になる仕組み(ビジョンの優位)と考え、「社会構造の空隙の近くにいる人ほど、良いアイデアを持ちやすい」という仮説を立てた。Burt 自身、この仮説は新しいものではなく、Simmel や Merton にもみられると述べている。
方法
対象は、2001年にアメリカ有数の電子機器メーカーでサプライチェーンを担っていた管理職673人である。サプライチェーンの問題をよく話し合う相手と、自分のアイデアを話し合った相手を尋ねるネットワーク調査に、455人(68%)が回答した。ネットワークの指標には「ネットワーク制約」を用いた。相談相手が少ないほど、相談相手どうしが直接よく話しているほど、また相談相手が一人の中心的な人物を介してつながっているほど、制約は高くなる。制約が低いほど、構造的空隙をまたいでいることを意味する。
アイデアについては、「サプライチェーン管理を改善するために一つだけ変えるとしたら何か」と尋ね、455件のアイデアを集めた。それを、大きな事業部門を率いる上級管理職2人が、誰の案かを伏せたうえで、「うまく実行されたら、どれくらいの価値を生むか」という問いに5段階で評価した。給与と人事評価は、調査の半年前と半年後の年次評価について会社の人事記録を用い、昇進は調査の翌年に上位の職位等級に上がったかどうかで測った。
主な結果
給与、良い人事評価、昇進、良いアイデアは、構造的空隙をまたぐネットワークを持つ管理職に偏っていた。集団の間を仲介する管理職ほど、アイデアを表明しやすく、2人の評価者の両方からアイデアを退けられにくく、アイデアが価値あるものと評価されやすかった。また、このような管理職ほど、自分のアイデアを他の人と話し合っていた。
アイデアはどう広がったか
一方で、アイデアを話し合った相手の多くは、ふだんから密につながっている身近な同僚だった。Burt は、アイデアは業務を変えるためというより、有能さを示したり、親しい同僚と楽しんだりするために話し合われていたと推論している。10か月後、Burt は、新たにサプライチェーン部門を率いることになった古参の社員(アイデアを評価した2人とは別の人物)に、有力な100件のアイデアについて、提案者が実行に向けて支持を集めようとしたかを尋ねた。100件は、評価者のどちらかが最高点をつけたアイデア、2人の平均が3.5以上のアイデア、上級管理職・部長・副社長が出したアイデアをすべて含むものである。そうした動きがみられたのは16人だった。支持を集めようとする動きは、アイデアの価値が高いほど、他の集団にもつながりがある人ほど、そして身近な同僚より遠い相手とアイデアを話し合った人ほど、みられやすかった。
Burt の結論は、良いアイデアは社会的な世界の交わるところから生まれたが、その広がり方は世界の間の分断をむしろ維持するものだった、というものである。
身近な例
たとえば、営業部門と開発部門の両方に顔の利く社員がいるとしよう。営業では当たり前の顧客の不満が、開発では知られていない。この社員は両方の事情が見えるため、「この機能をこう変えればよい」という提案を思いつきやすい。しかし、その案をいつもの昼食仲間に話すだけで終われば、開発部門には届かず、何も変わらない。
代表的な展開研究
- Obstfeld, D. (2005). Social networks, the tertius iungens orientation, and involvement in innovation. Administrative Science Quarterly. DOI ↗空隙を利用するのではなく、人どうしを結びつける志向(tertius iungens)に注目し、自動車メーカーの技術部門で、この志向と密なネットワーク、社内の事情についての幅広い知識が、イノベーションへの関与を予測することを示した。
- Fleming, L., Mingo, S., & Chen, D. (2007). Collaborative brokerage, generative creativity, and creative success. Administrative Science Quarterly. DOI ↗発明者の共同ネットワークを分析し、仲介の位置は新しい組み合わせを生むことには役立つ一方、仲介から生まれた組み合わせは、その後ほかの発明者に使われにくいことを示した。
批判と境界条件
Burt 自身が、いくつかの留保を述べている。第一に、仲介と成果の関連を示してきたそれまでの研究について、その関連は因果とはいえないと述べる。ネットワークはそれ自体が行為するのではなく、行為の文脈だからである(p. 354)。第二に、アイデアの価値をトップの経営陣の視点で評価したが、これがどの研究にも勧められる視点だとも、最善の視点だとも考えていないと述べている(p. 377)。第三に、アイデアが身近な同僚とばかり話し合われていたという推論は、データの限界に近いと認めている。分かっているのは最も詳しく話し合った相手の名前だけで、その後に他の集団の人と話したかどうかは分からないからである(p. 393)。
後の研究では、アイデアを生むことと、それを広め実行することを分けて考える必要が示されている。Obstfeld (2005, p. 101) は、構造的空隙は新しいアイデアを生む機会になる一方で、ばらばらの人々を動かして実行に移すのが難しいという「行為の問題」を抱えると論じた。そのうえで、人どうしを結びつける志向(tertius iungens)が、密なネットワークや社内の事情についての幅広い知識とともに、イノベーションへの関与を予測することを示している(p. 100)。Fleming, Mingo & Chen (2007, p. 443) は、仲介の位置が新しい組み合わせの生成には役立つ一方、その普及と他者による利用を妨げうることを示した。
研究上の位置づけ
出典
- 出版社の論文ページ ↗
- Obstfeld (2005), Administrative Science Quarterly ↗
- Fleming, Mingo & Chen (2007), Administrative Science Quarterly ↗
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