テルティウス・イウンゲンスTertius Iungens
一言で言うとつながっていない人どうしを引き合わせたり、すでにつながっている人どうしの新しい協力を促したりする「結びつける第三者」の志向が、組織のイノベーションへの関与につながるとする理論。
中核的な問い
構造的空隙の理論では、互いにつながっていない人々の間に立つ仲介者が、情報を早く得て、両者を競わせて利益を得るとされてきた。このような仲介者は「漁夫の利を得る第三者(テルティウス・ガウデンス)」と呼ばれる。しかし、組織で新しいアイデアを実現するには、多くの人を動かして協力させる必要がある。人々を分けておく仲介者ではなく、人々を結びつける仲介者のほうが役に立つのではないか。
主張とメカニズム
Obstfeld (2005) は、テルティウス・イウンゲンス(ラテン語で「結びつける第三者」)志向を、「つながっていない人どうしを引き合わせたり、すでにつながっている人どうしの新しい連携を促したりすることで、自分のネットワークの中の人々を結びつけようとする、戦略的な行動上の志向」と定義した。
Obstfeld は、イノベーションを、アイデアを生み出す段階と、それを実行に移す段階に分けて考えた。つながりのまばらなネットワークは、多様な情報に触れられるため、アイデアを生むには有利かもしれない。しかし、実行の段階では、関係者が互いにつながり、協力しあうことが必要になる。この「行動の問題」を解くのが、人々を結びつける志向と、互いにつながりあった密なネットワークである。
自動車メーカーの技術部門を対象に、聞き取りとアンケートを組み合わせた調査を行った結果、テルティウス・イウンゲンス志向、密なネットワーク、そして組織の中の人々についての多様な知識が、イノベーションへの関与を予測することが示された。
身近な例
たとえば、ある会社の若手技術者が、製品の不具合を減らす新しい検査方法を思いついたとしよう。彼女は、自分では面識のなかった品質管理部門の担当者を、知り合いの先輩を通じて紹介してもらう。さらに、以前から知り合いだった製造現場の班長と品質管理の担当者に声をかけ、三人で試行の段取りを決める。アイデアは、関係者が互いに結びついて協力しはじめたことで、はじめて実際の改善につながる。
主要概念
- テルティウス・イウンゲンス(tertius iungens)
- つながっていない人どうしを引き合わせたり、つながっている人どうしの新しい連携を促したりして、人々を結びつけようとする第三者の志向。
- テルティウス・ガウデンス(tertius gaudens)
- つながっていない二者の間に立ち、両者を分けたままにして自分の利益を得る第三者。
- 仲介(brokerage)
- 直接つながっていない人々の間に第三者が入り、情報や資源のやりとりを媒介すること。
- ネットワークの密度(network density)
- ある人の知り合いどうしが、互いにどれだけつながっているかの程度。
代表的な展開研究
- Quintane, E., & Carnabuci, G. (2016). How do brokers broker? Tertius gaudens, tertius iungens, and the temporality of structural holes. Organization Science. DOI ↗社員のメールのやりとりを分析し、構造的空隙に位置する人は、長期的な関係の外では情報を自分で媒介し(ガウデンス的)、長期的な関係の中では当事者どうしの直接のやりとりを促す(イウンゲンス的)ことを示し、二つの見方を時間の視点から統合した。
- Grosser, T. J., Obstfeld, D., Labianca, G., & Borgatti, S. P. (2019). Measuring mediation and separation brokerage orientations: A further step toward studying the social network brokerage process. Academy of Management Discoveries. DOI ↗仲介を、ネットワーク上の位置ではなく行動の志向としてとらえ、当事者の間を取りもつ志向と、当事者を引き離しておく志向を測る尺度を開発した。
批判と境界条件
原典の調査は、一つの自動車メーカーの一つの技術部門を対象としたものであり、ほかの組織や仕事にどこまで当てはまるかは慎重に考える必要がある。また Quintane & Carnabuci (2016) は、同じ人が、相手との関係が長期的かどうかによって、結びつける仲介と、分けておく仲介を使い分けることを示した。結びつける志向と分けておく志向は、人の固定した性質としてだけでなく、状況に応じた行動としても理解する必要がある。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Obstfeld, D. (2005). Social networks, the tertius iungens orientation, and involvement in innovation. Administrative Science Quarterly. DOI ↗
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