隠れたプロフィールHidden Profile
一言で言うと話し合いに必要な情報がメンバーに分かれて持たれ、各自の手元の情報だけでは別の案が良く見える状況。集団は全員が知っている情報ばかりを話し合いがちなため、情報を持ち寄れば分かるはずの最善の案を見逃しやすい。
この項目で考えられる身近な疑問
定義
Stasser & Titus (1985, p. 1468) は、集団のメンバー全員が知っている情報を共有情報、一人のメンバーだけが知っている情報を非共有情報と呼んだ。Lu, Yuan & McLeod (2012, p. 55) の整理では、隠れたプロフィールとは、全員が知っている情報だけを見ると劣った案が良く見え、最善の案は、各自が持つ非共有情報をすべて合わせたときに初めて見えてくる状況をいう。
主張とメカニズム
Stasser & Titus (1985) は、4人の学生グループに、架空の生徒会長候補3人から1人を選ばせる実験を行った。候補の情報をメンバー全員に同じように配った条件では、18グループの83%が最も多くの長所を持つ候補を選んだ。これに対し、その候補の長所がメンバーに分かれて配られた条件では、38グループのうち18%しかその候補を選ばなかった(p. 1474)。
著者らの「バイアスのかかった情報サンプリング」のモデルによれば、話し合いでは、ある情報が話題に上る確率は、それを知っている人が多いほど高くなる。また、メンバーは自分がすでに支持している案に合う情報を出しやすい(p. 1470)。そのため、構造のない対面の話し合いでは非共有情報が出にくく、話し合いはメンバーの偏った見方を正すよりも、固定しがちだった(p. 1467)。実際、集団の決定の多くは、話し合う前に最も多くのメンバーが支持していた案で決まっていた(p. 1474)。
どのくらい確かか
Lu, Yuan & McLeod (2012) は、65の研究(3,189集団、11,317人)をメタ分析した(p. 60)。この点を比べられた33の効果量では例外なく、全員が知っている情報のほうが、一人しか知らない情報より多く話し合われていた(d = 2.03, p. 65)。情報をすべて共有した集団は、情報が分かれた集団に比べ、正しい答えにたどり着くオッズが約8倍だった(p. 67)。この差は、集団の人数が多いほど、扱う情報が多いほど大きかった。また、正解のはっきりしない判断の課題(オッズ比15.18)では、正解を論理的に示せる課題(2.46)より、メンバー全員が最初から同じ誤った案に傾いている場合(17.09)では、意見が分かれている場合(2.62)より、それぞれ大きかった(pp. 66–67)。
Mesmer-Magnus & DeChurch (2009) は、72の研究(4,795集団)をメタ分析し、情報の共有はチームの成果と関連すること(ρ = .42)、とくに一人しか知らない情報の共有が強く関連すること(ρ = .50)を示した(p. 539)。一方で、知識が重なっていないチーム、つまり共有から最も得をするはずのチームほど、情報を共有していなかった(pp. 542–543)。著者らはこれを「チームは、最も必要なときに情報を共有しない」とまとめている(p. 544)。
共有を促す条件
Mesmer-Magnus & DeChurch (2009, p. 542) では、話し合いの手順を決めていること(ρ = .41)、協力的に話し合うこと(ρ = .57)、課題に論理的な正解があること(ρ = .45)が、共有される情報の多さと関連していた。著者らはここから、話し合いを構造化する、課題を正解のある問題として扱う、協力的な雰囲気をつくる、という示唆を引き出している(p. 543)。ただし協力については、協力的な集団が情報を多く共有するのか、共有が協力を高めるのか、因果の向きは分からないとしている(p. 544)。
Kerr & Tindale (2004, pp. 637–638) は、個々の実験で効果が報告された条件として、話し合いの時間を延ばすこと(非共有情報は時間がたつほど出てくる)、記憶に頼らず情報の記録を見ながら話すこと、非共有情報が支持する案をあえて推す人を置くこと、唯一の正解があると伝えること、候補に順位をつけさせることなどを挙げている。
身近な例
たとえば、4人の面接官が採用候補2人を比べる会議を考えよう。履歴書の内容は全員が知っており、それだけを見ると候補Aが良く見える。ところが、候補Bについては、面接官がそれぞれ別の場面で良い点を一つずつ見ていた。4人の話を合わせればBのほうが良いと分かるはずでも、会議では全員が知っている履歴書の話が中心になり、それぞれ一人しか知らない話は「自分の印象にすぎない」と思って出されない。こうして、会議はAで決まる。
主要概念
- 共有情報(shared information)
- 集団のメンバー全員が話し合いの前から知っている情報。
- 非共有情報(unshared information)
- メンバーのうち一人だけが知っている情報。隠れたプロフィールの研究では「固有の情報(unique information)」とも呼ばれる。
- バイアスのかかった情報サンプリング(biased information sampling)
- 話し合いで取り上げられる情報が、知っている人の多い情報や、話し手がすでに支持している案に合う情報に偏ること。Stasser & Titus (1985) が示したモデル。
代表的な展開研究
- Mesmer-Magnus, J. R., & DeChurch, L. A. (2009). Information sharing and team performance: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology. DOI ↗72の研究をメタ分析し、情報共有がチームの成果と関連すること、とくに非共有情報の共有が強く関連することを示した。共有を促す条件として、話し合いの構造化、協力、正解のある課題を挙げた。
- Lu, L., Yuan, Y. C., & McLeod, P. L. (2012). Twenty-five years of hidden profiles in group decision making: A meta-analysis. Personality and Social Psychology Review. DOI ↗65の研究をメタ分析し、共有情報が非共有情報より多く話し合われること、情報が分かれていると正しい決定に至りにくいことを確かめた。人数、情報量、課題の種類などによって差が大きくなることも示した。
批判と境界条件
証拠の多くは実験室の研究である。Kerr & Tindale (2004, p. 624) は、小集団の研究は実験のためにその場で集めた集団で行われることが多い(例外も多い)と述べている。Mesmer-Magnus & DeChurch (2009, p. 542) も、非共有情報の研究は実験操作と臨時に編成されたチームに頼っており、自己報告と実在のチームに頼る研究とは結果が異なること、その違いが方法によるものかどうかは未解決であることを指摘している。どちらのメタ分析も、職場の実在の集団を対象にした研究の割合は示していない。また、二つのメタ分析は多くの研究を共通に含んでおり、独立した確認とはみなせない。
何を「最善」とするかにも限定がある。Stasser & Titus (1985, p. 1469) は、最善の案とは集団が持つ情報の大半が支持する案という意味であり、その案が正しいという意味ではないと断っている。集団が持つ情報そのものが不完全でありうるからである。Lu, Yuan & McLeod (2012, p. 71) は、話し合いに出た情報の数を数えるだけでは、情報の有用性の違いや、情報がどう使われたかという仕組みを見落としうると述べている。
共有情報が決定を左右する経路についても、見方が分かれる。Kerr & Tindale (2004, pp. 636–637) によれば、Gigone & Hastie (1993, 1996) は、情報が話し合いで言及されたこと自体は判断への重みを高めず、少なくともその課題では、共有情報の影響はメンバーの好みを通じて完全に説明されることを示した。Kerr & Tindale (2004, p. 642) はさらに、集団は満足化する存在であり、共有情報や多数派に頼ることは、多くの場合にうまくいく効率的な手がかりでもありうると指摘している。
研究上の位置づけ
Pooling of unshared information in group decision making: Biased information sampling during discussion
出典
- 原典Stasser, G., & Titus, W. (1985). Pooling of unshared information in group decision making: Biased information sampling during discussion. Journal of Personality and Social Psychology. DOI ↗
- Kerr & Tindale (2004). Group performance and decision making. Annual Review of Psychology. ↗
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