ユーザー・イノベーションUser Innovation
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと新しい製品やサービスは、メーカーではなく、それを使う人(ユーザー)が自分の必要から生み出していることが少なくない。とくに市場の先端にいる「リードユーザー」は、将来の需要を先取りした発想の源になる、とする理論。
目次
中核的な問い
新製品はメーカーの研究開発部門が考えるもので、ユーザーはそれを買うだけの存在だ、と見ることもできる。しかし実際には、使う人が自分で道具を改良したり、新しいものを作ったりしている。イノベーションの担い手をメーカーに限らず捉え直すと、何が見えてくるのか。
主張とメカニズム
von Hippel (1986) は、変化の速い分野や非常に新しい製品については、一般の顧客に聞き取りをしても、今ある製品の延長にある意見しか出にくいと指摘した。そこで注目したのが「リードユーザー」である。リードユーザーとは、市場の大多数が将来抱く必要を、何か月も何年も先に抱えている人や組織で、しかもその問題を解決できれば大きな利益を得る立場にある。
解決の利益が大きいので、リードユーザーは既製品を待たずに自分で解決策を作ることが多い。また、Franke, von Hippel & Schreier (2006) が整理するように、イノベーションに関わる情報は均等には行き渡っておらず、使う本人やその仲間は、外部の出資者などに伝えられる以上の情報を持っている。von Hippel (1986) は、企業がリードユーザーを見つけ出し、その必要や工夫を調べることで、新しい製品の構想を得られると論じ、重要なトレンドを見定める、リードユーザーを見つける、そのデータを分析する、一般市場に当てはめる、という四つの手順を示した。その後、Franke & Shah (2003) は四つのスポーツ愛好家のコミュニティを調べ、工夫する利用者が仲間から無償で助けを受け、完成した工夫もコミュニティの中で無償で共有されることが多いと示した。ただし、競争の激しいコミュニティほど、助けも共有も少なかった。
身近な例
アウトドアやスポーツの愛好家が、市販の道具に満足できずに自分で改造し、仲間内で作り方を教え合う。やがてその工夫が評判になり、メーカーが製品として売り出す。ソフトウェアでも、利用者が自分の困りごとを解決するために書いたプログラムが公開され、広く使われるようになることがある。
主要概念
- リードユーザー(lead user)
- 市場の大多数より何か月も何年も早く新しい必要に直面し、その解決から大きな利益を得られる立場にある利用者。
- ユーザー・イノベーション(user innovation)
- 製品を売る側ではなく、使う側が生み出すイノベーション。
- 情報の粘着性(sticky information)
- 使用現場の細かな知識のように、他者へ移すのに手間やコストがかかる情報の性質。
- ユーザー・コミュニティ(user community)
- 利用者同士が助け合い、工夫や知識を共有する集まり。
代表的な展開研究
- Urban, G. L., & von Hippel, E. (1988). Lead user analyses for the development of new industrial products. Management Science. DOI ↗リードユーザーの考えを産業財の製品開発に当てはめ、その手法の有効性を検証した。
- Franke, N., & Shah, S. (2003). How communities support innovative activities: An exploration of assistance and sharing among end-users. Research Policy. DOI ↗スポーツ愛好家のコミュニティで、利用者同士が工夫を助け合い共有する様子を調べた。
批判と境界条件
ユーザーがイノベーションの担い手になる度合いは、分野によって大きく異なる。von Hippel (1986, p. 801) がまとめた先行研究では、科学機器や半導体製造装置では、商業的に成功した製品革新の多くをユーザーが開発していた。一方、エンジニアリング・プラスチックやプラスチック添加剤では、ユーザーによる開発は見られなかった。von Hippel は、これはそうした分野にリードユーザーがいないからではなく、開発から得られる利益の配分のために、メーカーなどが先に開発してしまうからだと説明している (p. 802)。
リードユーザーを探して協力を得るには、従来の方法より手間がかかる。Lilien et al. (2002, p. 1052) によれば、3Mでは、リードユーザー法で資金を得たアイデア1件に平均154人日かかり、従来の方法(平均60人日)を上回った。Olson & Bakke (2001, p. 391) が追ったノルウェーのIT企業 Cinet でも、専門家やリードユーザーを探し、条件を確かめ、参加を頼む作業が最も重い負担とされた。Cinet では、リードユーザーから出た案の多くが製品に採り入れられたのに、約1年後にはこの方法をやめ、供給業者に頼る従来のやり方に戻っていた (pp. 388, 391–392)。経営陣は理由として、担当者の退職と時間不足を挙げた (p. 392)。著者らは、定着には圧力か報酬が必要だと述べる一方、結論が1社の2製品に基づくことも認めている (pp. 388, 393)。Lilien et al. (2002, p. 1057) も、3Mでさえ社内への普及は課題だとしている。
また、ユーザーが自分で作れる範囲には限りがある。Cinet のパソコン部門では、おそらく部品が複雑なために、リードユーザーは1例を除いてハードウェアの解決策を自作していなかった (Olson & Bakke, 2001, p. 391)。社内の担当者は、彼らの案は小さな改良にしか役立たないと感じた (p. 391)。逆にソフトウェアのリードユーザーは自作していたが、一般の顧客より先に行きすぎていると心配された (p. 391)。原典も、今日のリードユーザーの必要は明日の多数派の必要と正確には同じでないことが多いとし、一般市場に当てはまるかの検討が必要だと認めている (von Hippel, 1986, p. 802)。
一方、Lilien et al. (2002, p. 1051) は、3Mでリードユーザー法から生まれた5件のアイデアの5年目の予測売上が、同時期の従来法のアイデアの8倍を超えたと報告した。会社に合わない、特許で守りにくいといった社内の懸念についても、従来法との差は見られなかった (p. 1052)。ただし、これは無作為に割り当てた実験ではなく (p. 1049)、実際の売上ではなく予測売上に基づく比較である (p. 1050)。著者らは、ほかの組織での実証を今後の課題に挙げている (p. 1056)。Franke et al. (2006, p. 310) はカイトサーフィンの利用者を調べ、リードユーザーの2つの要素のうち、大きな利益を期待することは工夫するかどうかを予測するが、工夫の商業的な魅力を予測したのはトレンドの先にいることだったと示した。ただし、扱ったのは対象市場の中のリードユーザーに限られる (p. 313)。
研究上の位置づけ
Lead users: A source of novel product concepts
出典
- 原典von Hippel, E. (1986). Lead users: A source of novel product concepts. Management Science. DOI ↗
- Lilien, Morrison, Searls, Sonnack & von Hippel (2002). Performance assessment of the lead user idea-generation process for new product development. Management Science. ↗
- Franke, von Hippel & Schreier (2006). Finding commercially attractive user innovations: A test of lead-user theory. Journal of Product Innovation Management. ↗
- Olson & Bakke (2001). Implementing the lead user method in a high technology firm: A longitudinal study of intentions versus actions. Journal of Product Innovation Management. ↗
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