SL理論(状況対応リーダーシップ)Situational Leadership Theory
一言で言うとリーダーの効果的なスタイル(仕事の指示と、部下への気づかいや支援の組み合わせ)は部下の成熟度(仕事の能力と意欲)によって変わり、成熟度が上がるにつれて指示型・説得型・参加型・委任型へと移していくべきだとする、処方型のリーダーシップ理論。
中核的な問い
部下に細かく指示を出すべきか、それとも任せるべきか。SL理論は、その答えは部下の状態で決まるとし、部下の成熟度ごとに最適なリーダーのスタイルを処方しようとした。リーダーは仕事の指示と部下への気づかいを、部下の成熟に合わせてどう組み合わせ、どう変えていけばよいのか。
主張とメカニズム
Vecchio (1987) によれば、Hersey & Blanchard (1969) はライフサイクル理論を提案し、リーダーの効果を説明するには、課題志向(仕事を組み立て、指示する行動)と関係志向(社会的・情緒的な支援)を、部下の成熟度と合わせて考える必要があるとした。中心の考えは、部下の成熟度が上がるにつれて、効果的なリーダー行動は指示も支援も少なくなる、というものである。ただし減り方は一様ではない。勤め始めたばかりの部下には、関係志向が低く課題志向が高いのが理想とされる。成熟するにつれて情緒的な支援の必要は増え、指示の必要は減る。ある水準を超えると両方の必要が減り、最も成熟した部下にはどちらの行動も余分になるとされた。
Hersey & Blanchard (1982) の教科書はこれを具体的にし、成熟度を低・中・高に分け、リーダーのスタイルを指示型・説得型・参加型・委任型の四つにまとめた(Vecchio, 1987)。Thompson & Vecchio (2009) の整理では、成熟度は部下の意欲と能力を合わせたものである。二人は説明のために四つの組み合わせを挙げており、成熟度がごく低い部下には指示型、やや低い部下には説得型、やや高い部下には参加型、ごく高い部下には委任型が合う。成熟度には、「自律への準備度(レディネス)」という、見下した響きの少ない呼び方もある。
理論はその後も改訂された。Thompson & Vecchio (2009) によれば、Blanchard (2007) の改訂版(SLT-II と呼ばれる)は、能力と意欲を足し合わせず、組み合わせで四つの発達レベルに分けた。能力は低いが意欲の高い「熱心な初心者」には指示型、能力が低めで意欲の低い「幻滅した学習者」にはコーチ型、能力は中程度以上で意欲が揺れる「有能だが慎重な実行者」には支援型、どちらも高い「自立した達成者」には委任型が合うとされる。この改訂で、能力と意欲の組み合わせによっては予測が示されない場合が生じた。二人はこれとは別に、経験を積んだ部下ほどリーダーが与える自律性によく反応するという、より一般的な言い換え(SLT-III)も示した。
身近な例
たとえば、カフェのアルバイトに新人が入ったとしよう。最初の週、店長はレジやドリンクの手順を一つずつ示し、細かく確認する(指示型)。数か月たって手順は覚えたが、失敗が続いて気持ちが沈んでいる時期には、手順の説明を続けながら励ましも増やす(説得型)。さらに慣れてくると、作業の段取りを本人と相談して決めるようになり(参加型)、1年たったベテランにはシフトの組み立てまで任せる(委任型)。SL理論は、このように振る舞いを部下の成熟度に合わせて切り替えることが効果を生むと考える。ただし後で見るように、研究で支持されたのは主に、経験の浅い部下には気づかいを控えめにして指示を多くする、という部分である。
主要概念
- 成熟度(maturity/readiness)
- 仕事に必要な能力と、仕事への意欲を合わせた部下の状態。のちに「自律への準備度(レディネス)」とも呼ばれた。
- 課題志向(task behavior)
- 部下の仕事を組み立て、指示するリーダーの行動。検証研究では「構造づくり」の尺度で測られた。
- 関係志向(relationship behavior)
- 部下への社会的・情緒的な支援。検証研究では「配慮」の尺度で測られた。
- 発達レベル(development level)
- 部下の育ち具合を表す言い方。改訂版(SLT-II)では、部下の能力と意欲の組み合わせで四つのレベルに分ける。
代表的な展開研究
- Vecchio, R. P. (1987). Situational leadership theory: An examination of a prescriptive theory. Journal of Applied Psychology. DOI ↗高校教員303人の調査で理論の処方を検証し、処方が当てはまるのは主に成熟度の低い部下で、成熟度の高い部下については理論が予測できないことを示唆した。
- Thompson, G., & Vecchio, R. P. (2009). Situational leadership theory: A test of three versions. The Leadership Quarterly. DOI ↗ノルウェーの金融機関の部下357人と上司80人のデータで、元の版、2007年の改訂版、自律性と経験の交互作用に言い換えた版を比べ、どの版にも明確な支持はないと結論した。
批判と境界条件
SL理論は、リーダーシップの理論の中でも特に広く知られながら、裏づけの乏しいものの一つとされる(Thompson & Vecchio, 2009, p. 837)。広く使われる経営学の教科書は実証的な支持がないことに触れずに紹介することが多く、研修の場ではあまり批判的に見られていない(p. 837)。組み立てにも批判がある。Graeff (1983) は、成熟度をなす能力と意欲が中間の2段階でどう組み合わさるかに理論的な根拠がなく、成熟度の概念に内的な矛盾があること、成熟度とリーダー行動を結ぶ曲線にも理論的な裏づけがないことを挙げた(pp. 286–287, 290)。Hersey & Blanchard の測定用具(LEAD)についても、低課題・低関係の選択肢が「介入しない」「何も手を打たない」といった、リーダーの役割を放棄するに近い行動として書かれているため、スタイルの測定が偏ること(pp. 288–289)、選択肢への配点の根拠が足りず、効果の得点の妥当性が疑わしいことを指摘した(p. 289)。Vecchio (1987) も、Hersey & Blanchard (1982, pp. 96–99) の教科書が効果を「スタイルが適切であること」と定義しており、論理がやや循環していると指摘した(p. 446)。
Vecchio (1987) は、中西部の大都市にある高校14校の常勤教員303人を対象に、教員が校長の配慮と構造づくりを、校長が教員の成熟度と業績を評定した調査で理論を検証した(p. 447)。三つの変数の交互作用は、業績、上司との関係の質(LMX)、上司への満足のどれにも見られなかった(p. 448)。成熟度の水準ごとに比べると、結果は成熟度の低い教員でおおむね理論を支持し、中程度では入り混じり、高い教員ではおおむね有意でなかった(p. 449)。支持されたのは、成熟度の低い部下には気づかいを控え、指示を多くするという部分だった(p. 449)。
Thompson & Vecchio (2009) は、ノルウェーの金融機関10社の部下357人と上司80人のデータで三つの版を比べた(p. 840)。元の版では三つの変数の交互作用は見られず(p. 841)、処方どおりの組み合わせの部下が態度の指標で有意に上回ったものの、業績を含む三つの指標の効果の大きさは分散の1〜4%にとどまった(p. 842)。改訂版では回答者の37%が理論の予測の及ばない範囲に入り(p. 847)、全体では予測どおりの差はなく、むしろ処方どおりでない部下のほうがどの指標でも平均が高かった(p. 843)。自律性と経験の交互作用は LMX についてだけ見られた(p. 845)。二人はどの版にも明確な支持はないとし(p. 845)、研修で教える人は根拠が弱いことを受講者に伝えるべきで、成熟度の高い部下に指示も気づかいも控えるという処方は誤りだと述べた(p. 846)。これまでの研究はすべて一時点の調査で、部下の成長を追った研究はない(p. 847)。
研究上の位置づけ
Life-cycle theory of leadership
出典
- 原典Hersey, P., & Blanchard, K. (1969). Life-cycle theory of leadership. Training and Development Journal, 23, 26–34.
- Hersey & Blanchard (1982). Management of organizational behavior (4th ed.). Prentice-Hall.(書籍)
- Blanchard (2007). Leading at a higher level. Prentice-Hall.(書籍)
- Graeff (1983). The situational leadership theory: A critical view. Academy of Management Review. ↗
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