理論・視点

サービス・ドミナント・ロジックService-Dominant Logic

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

経済的な交換の根本にあるのはモノではなく、知識やスキルを相手のために用いる「サービス」であり、モノはサービスを届けるための手段にすぎない、という視点。

目次
説明したい問い企業と顧客のあいだで交換されている価値の本質は、モノなのか、それともサービスなのか。
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中核的な問い

マーケティングは、交換のモデルを経済学から受け継いだ。そこでは、工場でつくられたモノに価値が埋め込まれ、それが売買されると考える。しかし、知識や関係性、目に見えない資源の重要性が増すなかで、この見方で十分なのか。交換を捉える基本の論理そのものを変える必要はないのか。

02

主張とメカニズム

Vargo & Lusch (2004) は、サービスを「専門的な能力(知識とスキル)を、行為・プロセス・パフォーマンスを通じて、他者または自分自身の便益のために用いること」と定義した。ここでいうサービスは、医療や教育のような「サービス業」に分類される産業のことではない。あらゆる交換の根底にある、能力を相手のために用いる活動を指す。原典はこれを複数形の services と書いていたが、Vargo & Lusch (2008) によれば、二人はのちに、無形の産出物を思わせる複数形をやめ、資源を相手のために用いる過程を表す単数形の service に改めた。

二人は、従来の見方をモノ中心の支配的論理(goods-centered dominant logic)と呼んだ。のちの Vargo & Lusch (2008) は、これをグッズ・ドミナント・ロジックと呼んでいる。そこでは、モノに埋め込まれた価値、有形の資源、一回ごとの取引が重視される。これに対して新しい論理では、他の資源に働きかけて効果を生む資源(オペラント資源、とくに知識とスキル)を中心に置く。働きかけられる側の資源(オペランド資源、原材料や機械など)は、それを支える位置づけになる。

原典は、この論理を8つの基本的前提(foundational premises)にまとめた。(1) 専門化されたスキルと知識の適用が交換の基本単位である。(2) 間接的な交換は、交換の基本単位を見えにくくする。(3) モノはサービスを提供するための流通の仕組みである。(4) 知識は競争優位の根本的な源泉である。(5) すべての経済はサービス経済である。(6) 顧客は常に共同生産者である。(7) 企業は価値提案しかできない。(8) サービス中心の見方は、顧客志向的で関係的である。Vargo & Lusch (2008) によれば、二人は2006年に前提を1つ加え、「共同生産者」を「価値の共創者」に改めた。2008年の論文では前提の表現をさらに見直し、10番目の前提を加えて10とした。Vargo & Lusch (2016) によれば、二人はその後、10の前提を、残りの前提がそこから導かれる4つの公理にまとめた。そして2016年の論文で、制度(人が作り出したルール、規範、信念など)の役割に焦点を当てた11番目の前提を、5番目の公理として加えた。これらは原典の8つとは別のものとして区別する必要がある。

03

身近な例

たとえば、ある家族が洗濯機を買ったとしよう。モノ中心の見方では、価値は店で洗濯機を受け渡した時点で移ったことになる。サービス・ドミナント・ロジックでは、洗濯機はメーカーの設計や製造の知識を家庭に届ける入れ物である。価値が生まれるのは、家族が自分たちの時間や手間、洗い方の工夫と組み合わせて、実際に服をきれいにしたときである。メーカーにできるのは「この洗濯機ならこう暮らしが楽になる」という提案までであり、その価値を実現するのは使う側だということになる。

04

主要概念

サービス(service)
知識やスキルといった専門的な能力を、他者または自分自身の便益のために用いること。
オペラント資源(operant resources)
知識やスキルのように、他の資源に働きかけて効果を生み出す資源。
オペランド資源(operand resources)
原材料や機械のように、働きかけられることで効果を生む資源。
グッズ・ドミナント・ロジック(goods-dominant logic)
モノに価値が埋め込まれ、その取引によって価値が交換されると考える、従来の見方。
価値提案(value proposition)
企業が顧客に示す、どのような価値が実現しうるかについての提案。
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代表的な展開研究

  • Vargo, S. L., & Lusch, R. F. (2008). Service-dominant logic: Continuing the evolution. Journal of the Academy of Marketing Science. DOI ↗2004年の前提の表現を見直し(「交換の単位」を「基盤」に改めるなど)、10番目の前提(価値は受益者が独自に判断する)を加えて10とした。2006年に改めた「顧客は常に価値の共創者である」を確認し、価値の共創と共同生産を区別した。
  • Vargo, S. L., & Lusch, R. F. (2016). Institutions and axioms: An extension and update of service-dominant logic. Journal of the Academy of Marketing Science. DOI ↗10の基本的前提を4つの公理にまとめた整理を踏まえ、制度の役割に焦点を当てた11番目の前提を5番目の公理として加えた。既存の前提のうち4つの表現も改めた。
06

批判と境界条件

Vargo & Lusch (2008, p. 1) は、サービス・ドミナント・ロジックを自分たちが「所有」するものではなく、開かれた形で発展していくものだと述べている。二人によれば、その説明は網羅的なものではなく、学界に発展への参加を呼びかけるためのものである (Vargo & Lusch, 2008, p. 5)。また二人は、これは理論ではないとも述べる。理論には法則のような一般化や、説明と予測の力が必要だからである (Vargo & Lusch, 2008, p. 9)。

前提の言葉づかいも改められた。Vargo & Lusch (2008, p. 2) は、寄せられた主な指摘として、前提がモノ中心の論理の語彙に頼りすぎていること、管理者寄りであること、価値創造の相互作用的な性格の扱いが明示的でないことなどを挙げた。そのうえで前提の表現を改め、1つを加えた (Vargo & Lusch, 2008, p. 6)。たとえば「交換の基本単位」の「単位」は、産出物の単位を思わせるとして「基盤」に改めた (Vargo & Lusch, 2008, p. 6)。また、価値は常に受益者によって独自に、現象学的に判断される、という10番目の前提を加えた (Vargo & Lusch, 2008, p. 9)。

Grönroos (2011, p. 279) は、「顧客は常に価値の共創者である」という言い方が、批判も疑問もなく繰り返されてきたと指摘した。彼によれば、この言い方は最も抽象的な水準では正しいが、単純すぎて理論の発展や実務の意思決定に役立たない (Grönroos, 2011, p. 280)。Grönroos は、使用価値を創造するのは基本的に顧客であり、企業の基本的な役割は顧客の価値創造を支える価値の促進者だとした (Grönroos, 2011, pp. 288–289)。企業が価値の共創者になる機会を持つのは、顧客と直接やりとりする場面に限られる (Grönroos, 2011, p. 290)。そのため、顧客と企業が共創者になるのは一定の条件のもとだけであり、顧客は常に価値の創造者だと言い換えるべきだと論じた (Grönroos, 2011, p. 294)。

一方、Vargo & Lusch (2008, p. 8) は、この批判より前に、価値の共創と共同生産を区別していた。二人によれば、価値は一方的に創り出せないので顧客は常に価値の共創者であるが、共同生産への関与は任意で、まったくない場合から大きい場合まである (Vargo & Lusch, 2008, p. 8)。また「企業は価値提案しかできない」は、提案をしたら企業の役割が終わるという意味ではなく、企業が単独では価値を創造も提供もできないという意味だと説明した (Vargo & Lusch, 2008, p. 8)。これに対して Grönroos (2011, pp. 294–295) は、直接のやりとりの場面では、企業は価値提案にとどまらず、顧客の価値創造に直接影響を与えうると論じた。

研究上の位置づけ

原典Vargo, S. L., & Lusch, R. F. (2004)
Evolving to a new dominant logic for marketing
分類理論的視点
分析単位組織 · 二者関係
理論系譜経済学
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。