創造性の構成要素モデルComponential Model of Creativity
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと創造的な成果は、領域に関する技能、創造性に関する技能、課題への動機づけの三つがそろったときに生まれ、とくに内発的な動機づけが創造性を高め、外からの制約はそれを損ないうる、とする理論。
目次
中核的な問い
創造性の研究は、長く「創造的な人とはどんな性格か」に関心を寄せてきた。しかし、同じ人でも、状況によって創造的になったりならなかったりする。創造性を生む個人の要素は何か。そして、評価や報酬といった周囲の社会的な条件は、創造性にどう影響するのか。
主張とメカニズム
Amabile (1983) は、理論の土台となる概念的な定義として、創造性を次のように定めた。「ある成果や反応は、(a) それが目の前の課題に対して新しく、かつ適切で、有用で、正しく、あるいは価値のある反応であり、(b) その課題が、決まった手順で解けるものではなく発見的なものである程度に応じて、創造的だと判断される。」あわせて、実際の研究で使う定義としては、Amabile (1982) の「合意による定義」を採った。その分野に詳しい観察者たちが独立に創造的だと判断して一致する程度に応じて、成果や反応を創造的とみなす、というものである。
このモデルでは、創造的な成果に三つの要素が必要とされる。領域に関する技能は、その分野の知識や技術的な技能である。創造性に関する技能は、固定した見方から抜け出す思考のスタイルや、新しい発想を生むための経験則の知識、粘り強い仕事の進め方などである。課題への動機づけは、課題に対する態度と、自分がなぜそれに取り組むのかという認識である。三つのどれかが欠けると、創造的な成果は生まれにくい。
とくに重視されたのが動機づけである。Amabile (1983) は、課題への取り組みが内発的に動機づけられた状態を主とするなら創造性は高まり、外発的な動機づけを主とするなら創造性は損なわれると提案した。外から課された制約は、内発的な動機づけを弱めることで創造性に悪影響を与える、というのである。ここでいう外からの制約とは、課題への取り組みを統制しようとする、あるいは統制していると受け取られうる要因で、課題そのものではなく社会的な環境から持ち込まれるものである。動機づけは、社会的な環境によって変わりやすい。そのため、この要素を通じて、周囲の条件が創造性を左右すると考えた。
身近な例
たとえば、絵を描くのが好きな学生が二人いるとしよう。一人は、好きなテーマを自由に描いている。もう一人は、同じ題材を、先生に採点されると知らされたうえで描いている。二人の技術が同じくらいでも、採点を意識した学生は、無難な構図を選び、思い切った工夫を控えるかもしれない。このモデルは、こうした差が技能ではなく動機づけから生じうることを説明する。
主要概念
- 領域に関する技能(domain-relevant skills)
- その分野の知識、技術的な技能、特有の才能など、課題に取り組むための土台となる技能。
- 創造性に関する技能(creativity-relevant skills)
- 固定した見方から抜け出す思考のスタイル、新しい発想を生む経験則の知識、仕事の進め方など。Amabile (1983) はこの名で呼んだ。Amabile & Pratt (2016) によれば、1988年の論考では「創造的思考の技能」と呼ばれ、のちに「創造性に関する過程(creativity-relevant processes)」と改められた。
- 課題への動機づけ(task motivation)
- 課題に対する態度と、自分がそれに取り組む理由についての認識。
- 内発的動機づけ(intrinsic motivation)
- 課題そのものへの興味や楽しさから取り組むこと。
- 発見的な課題(heuristic task)
- 解き方の手順があらかじめ決まっておらず、道筋を自分で見つける必要がある課題。
代表的な展開研究
- Amabile, T. M., Conti, R., Coon, H., Lazenby, J., & Herron, M. (1996). Assessing the work environment for creativity. Academy of Management Journal. DOI ↗職場の環境のなかで、創造性を促すと受け止められている要因と、妨げると受け止められている要因を測る尺度 KEYS を開発した。促す要因を6つ、妨げる要因を2つの尺度で測る。この尺度で測った職場環境の受け止め方は、創造性の高いプロジェクトと低いプロジェクトを見分けた。尺度のもとになった概念モデルは、Amabile (1988) が組織の創造性とイノベーションに広げた構成要素モデルを、より詳しく具体化したものである。
- Amabile, T. M., & Pratt, M. G. (2016). The dynamic componential model of creativity and innovation in organizations: Making progress, making meaning. Research in Organizational Behavior. DOI ↗Amabile (1988) が組織のイノベーションまで広げた構成要素モデルに、フィードバックの輪(ループ)を加えて動的なモデルへと改訂し、創造的なアイデアづくりの進捗の感覚、仕事の有意味さ、感情、相乗的な外発的動機づけの四つを新たに加えた。
批判と境界条件
Amabile & Pratt (2016, p. 175) によれば、この理論の中核である内発的動機づけの原則は、心理学と組織行動論の多くの研究で支持されてきたが、いくつかの不一致もあり、二つの方向から疑問が出されてきた。一つは行動主義の流れをくむ研究者たちで、Eisenberger & Cameron (1996) などは、あらかじめ約束された報酬によって、創造性は簡単に高められ、損なわれることはまれだと主張した。これに対して Amabile & Pratt (2016, p. 175) は、それらの研究の結果には別の説明が成り立つことが示されていると応じている。報酬で創造性が高まるという結果には、原典の Amabile (1983, p. 371) もすでに触れていた。原典は、それらの研究では何をすれば創造的とされるかが参加者に明示され、課題が手順の決まったものに変わっていたためだと説明している。もう一つは、内発的・外発的な動機づけが創造性に良くも悪くも働く条件を細かく調べるべきだ、という有力な研究者たちの呼びかけである (p. 175)。
こうした議論を受けて、Amabile & Pratt (2016) は原則そのものを改めた。もとの原則は、外発的な動機づけは内発的な動機づけと対立し、それより強いときには創造性に決して役立たない、という考えに基づいていた (p. 160)。改訂後の原則は、Amabile (1993) の「動機づけの相乗効果」の考えを取り入れ、内発的な動機づけは創造性に役立ち、統制的な外発的動機づけは創造性を損なうが、情報を与えたり取り組みを可能にしたりする外発的動機づけは、最初の内発的動機づけが高い場合にはとくに役立ちうるとする (p. 177)。ただし、最初の内発的動機づけが高ければ外発的な動機づけが中立か良い効果をもちうるという考えは、Amabile (1988) でも名前を付けずに短く触れられていたという (p. 176)。原典 (Amabile, 1983, p. 372) もすでに、外からの制約があっても創造性が損なわれにくい場合として、外からの目標が創造的な答えを求めるもので、その分野に熟達してそう判断される答えへの手順をすでにもっている場合、外からの目標を心の中で目立たなくできる場合、内発的な動機づけが非常に高く外発的な動機づけが主にならない場合の三つを挙げていた。
著者ら自身も、提案の多くがまだ実証的に調べられていないことを認めている (p. 179)。相乗的な外発的動機づけについての研究は少なく、情報を与える報酬が準備や検証の段階の成果を統制的な報酬より高めるかどうかは、まだ実証されていない (p. 181)。Amabile & Pratt (2016) によれば、もとのモデルは内発的動機づけの原則を自己知覚によって説明したが、こうした動機づけの効果の仕組みを調べた研究は少ない (p. 181)。なお原典 (Amabile, 1983, pp. 371–372) は、外発的な動機づけが課された目標だけに注意を向けさせ、一見無関係な手がかりへの注意を減らす、という注意による説明も示していた。また、三つの要素の関係が本当に掛け算的なのか、足し算的など別の形なのかも、今後確かめるべき点とされている (p. 179)。
研究上の位置づけ
The social psychology of creativity: A componential conceptualization
出典
- 原典Amabile, T. M. (1983). The social psychology of creativity: A componential conceptualization. Journal of Personality and Social Psychology. DOI ↗
- Eisenberger & Cameron (1996). Detrimental effects of reward: Reality or myth?. American Psychologist. ↗
- Amabile (1993). Motivational synergy: Toward new conceptualizations of intrinsic and extrinsic motivation in the workplace. Human Resource Management Review. ↗
- Amabile (1988). A model of creativity and innovation in organizations. Research in Organizational Behavior, 10, 123–167(書籍シリーズの章、JAI Press。Crossref に DOI なし).
- Amabile (1982). Social psychology of creativity: A consensual assessment technique. Journal of Personality and Social Psychology. ↗
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