理論・視点

外国企業の不利益(外国性の負債)Liability of Foreignness

原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)

一言で言うと

外国企業は、現地企業なら負わずにすむ追加の費用を負うため競争上不利になりやすいとする概念である。Zaheer (1995) は、組織の能力が強みの源泉となる業界では、本国に経験のない現地企業のやり方をまねるより、本国から持ち込んだやり方を守るほうが、この不利を乗り越えるのに役立つ可能性を示した。

目次
説明したい問い外国の市場で事業を行う企業は、なぜ現地企業に比べて不利になるのか。そして、その不利をどう乗り越えるのか。
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中核的な問い

同じ市場で同じ事業をしていても、外国から来た企業には、現地企業にはない苦労がある。土地勘がない、現地の人脈がない、よそ者として見られる。こうした不利は、どこから生まれるのか。そして、外国企業はそれをどうすれば克服できるのか。

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主張とメカニズム

Zaheer (1995) は、外国企業の不利益(liability of foreignness)を、海外で事業を行う費用のうち、多国籍企業の海外の組織単位に競争上の不利をもたらすものとし、それは広く、海外の市場で事業を行う企業が負う追加の費用のうち、現地企業なら負わずにすむものすべてと定義されてきたと述べた。Denk, Kaufmann & Roesch (2012) によれば、「海外で事業を行う費用」(costs of doing business abroad)という言葉を最初に用いたのは Hymer (1976) であり、Hymer は、現地企業のほうが市場の情報を得やすく、国内の環境に深く根づき、為替の危険も負わないと論じた。Denk et al. (2012) によれば、外国企業が負う不利は、同じ市場で事業を行う他の企業と比べたときに初めて明らかになる、比較の中で見える不利である。

Zaheer (1995) は、この費用の源泉として、互いに独立とは限らない少なくとも四つを挙げた。第一に、空間的な距離から生じる費用で、移動、輸送、時差をまたいだ調整などである。第二に、企業に固有の費用で、現地の環境になじみがないことから生じる。第三に、進出先の国の環境から生じる費用で、正統性(社会から認められていること)の不足や、自国の企業を優遇する経済ナショナリズムなどである。第四に、本国の環境から生じる費用で、本国政府による規制などである。なお、Denk et al. (2012) によれば、のちに Eden & Miller (2001) は、この不利を、なじみのなさの危険、関係上の危険、差別の危険の三つに初めて分類した。

Zaheer は、この不利を乗り越える方法として、二つの道を比べた。一つは、本国で培った組織の能力を持ち込み、それを強みとして活かす道である。もう一つは、成功している現地企業のやり方をまねる道である。Zaheer (1995) は、それまでほとんど検証されていなかったこの不利が、実際にあるかを確かめようとした。調べたのは、ニューヨークと東京にある欧米と日本の大手銀行の外国為替取引部門で、同じ銀行の両都市の部門を組にした24部門である。部門の年数と規模を考慮しても、外国の部門は同じ都市の現地の部門より、トレーダー1人あたりの利益が低かった。そのうえで Zaheer は、組織の能力が強みの源泉となるこの業界では、本国に経験のない現地のやり方を丸ごとまねるより、本国から持ち込んだやり方を守るほうが不利の克服に役立つ可能性があると結論した。たとえば、成果に応じた報酬や外部からの採用といった「市場による管理」を現地の平均より強く使う部門ほど、不利は小さかった。ところが、そうした管理を本国の部門より強く使う部門では、かえって不利が大きかった。Zaheer は、企業は慣れないやり方を取り入れるのが難しく、本国から受け継いだ管理のあり方が、海外の部門の業績を助けも縛りもすると解釈した。

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身近な例

たとえば、ある国の外食チェーンが、別の国に初めて店を出したとしよう。現地の不動産業者とのつながりがないので、よい立地を見つけるのに時間がかかる(なじみのなさ)。本社との打ち合わせは時差のせいで夜中になる(距離)。現地の客からは「外国の店」として様子見をされる(正統性の不足)。このとき、本国で磨いてきた調理の標準化や人材育成の仕組みを持ち込めれば、それが企業に固有の強みとなり、不利を埋める助けになりうる。反対に、本国に経験のない現地の人気店のやり方を形だけまねても、うまく使いこなせず、かえって業績を落とすことがある。

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主要概念

外国企業の不利益(liability of foreignness)
海外で事業を行う費用のうち、現地企業にはない、外国企業に競争上の不利をもたらすもの。
正統性(legitimacy)
ある組織やその行動が、社会の規範や価値観から見て適切だと認められている状態。
組織能力(organizational capabilities)
企業が本国で培ってきた、仕事の進め方や管理の仕組みなど、組織として物事をうまく行う力。
経済ナショナリズム(economic nationalism)
自国の企業を優遇し、外国企業を不利に扱おうとする政府や社会の姿勢。
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代表的な展開研究

  • Zaheer, S., & Mosakowski, E. (1997). The dynamics of the liability of foreignness: A global study of survival in financial services. Strategic Management Journal. DOI ↗世界各地の金融サービスの事業所の存続を調べ、外国企業の不利益が時間の経過とともにどう変わるかを検討した。Denk et al. (2012) によれば、この研究は概念に時間の視点を加え、国際化に伴う困難が時間とともに小さくなることを見いだした。
  • Johanson, J., & Vahlne, J.-E. (2009). The Uppsala internationalization process model revisited: From liability of foreignness to liability of outsidership. Journal of International Business Studies. DOI ↗国際化の障害の中心は、外国であることそのものより、現地の関係ネットワークの外にいること(部外者の不利益)にあると論じた。
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批判と境界条件

外国企業であることは、常に不利になるとは限らない。Denk, Kaufmann & Roesch (2012, p. 326) の整理によれば、外国企業だと受け止められることが、民族的に近い地域社会と取引するときなどには、かえって資産にもなりうると強調する研究者もいる。Denk et al. (2012, p. 331) によれば、Nachum (2010b) などの研究は、特定の環境では外国であることが負債ではなく資産になることを見いだしている。

この概念の有用性そのものも問われている。Denk et al. (2012, p. 327) の整理によれば、Johanson & Vahlne (2009) は、外国企業が現地のネットワークの周縁で部外者の位置に置かれやすいことに注目し、この「部外者の不利益」(liability of outsidership)が事業の機会を逃させ、海外で足場を築くうえでの大きな障害になるとした。Denk et al. (2012, p. 322) は、最近の国際経営の研究を見ると、この概念は制度理論から生まれた概念に取って代わられたのかもしれないとも述べる。ただし Denk et al. (2012, p. 330) は、経済の統合が進んだ今の状況が、ただちにこの概念が時代遅れであることを意味するわけではないとする。その根拠の一つとして、知識を求める海外投資では、新しい技術が外国企業の不利益を大きくは減らさないという Nachum & Zaheer (2005) の結果を挙げている。

Denk et al. (2012, p. 329) は、これまでの研究に残る弱さも指摘している。まず、Zaheer & Mosakowski (1997) の基礎があるにもかかわらず、不利が時間とともにどう変わるかについての知識はまだ限られ、ある時点の静的な姿を描く研究が多い。また、調べる企業を本国の企業と比べるか進出先の企業と比べるかという比較の基準の選び方によって、結果を一般化できるかに疑問が生じる(Denk et al., 2012, p. 329)。さらに、先進国と新興国の根本的な違いから、新興国出身の企業にこの概念が当てはまるかは疑わしいとされる(Denk et al., 2012, p. 330)。

Zaheer (1995) 自身も、結果の読み方に注意を求めている。標本が小さいので、結果は決定的なものではなく示唆として扱うべきだとし (p. 352)、業績は一度しか測れなかったと認めた (p. 353)。また、技術、ブランド、規模など、組織の能力以外に強みがある業界では、現地のやり方に合わせても業績を損なわず、むしろ助けになるかもしれないと述べた (p. 359)。外国企業が現地で経験を積むと不利は小さくなるか、業界のグローバル化が進んでも外国であることは費用を伴い続けるかは、今後の問いとして残した (p. 360)。

研究上の位置づけ

原典Zaheer, S. (1995)
Overcoming the liability of foreignness
分類概念
分析単位組織
理論系譜制度論 · 経済学
REFERENCES

出典

文献についての注

  1. Denk, Kaufmann & Roesch (2012, p. 328) は、Zaheer (1995) を典拠として、現地企業のやり方をまねること(模倣的同型化)が、外国企業が進出先で正統性を得て不利を乗り越えるうえで重要だと分かった、と述べている。しかし Zaheer (1995) は、本国の部門のやり方に近いほど不利が小さいという仮説と、現地の部門のやり方に近いほど不利が小さいという仮説を並べて検証し (pp. 345–346)、本国から持ち込んだやり方のほうが、現地の模倣より、この不利を乗り越える有効な方法でありうると結論している (p. 360)。国による外国企業の正統性の違いがこの不利に影響するかは、今後の問いとして挙げている (p. 360)。本ページは Zaheer (1995) の記述に従った。

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