折衷パラダイム(OLIパラダイム)Eclectic Paradigm (OLI Framework)
原典と照合済み本文の根拠にした文献は出典に記載(照合の手順)
一言で言うと企業が海外直接投資によって国外で生産を行うかどうか、どこで、どの形で行うかは、企業が持つ所有の優位(O)、国の立地の優位(L)、取引を市場に任せず社内で行う内部化の優位(I)の組み合わせで決まる、とする理論。
目次
中核的な問い
外国市場で製品を売る方法は一つではない。国内でつくって輸出してもよいし、現地企業に技術を貸して生産してもらう(ライセンス供与)こともできる。それなのに、なぜ一部の企業は、わざわざ海外に工場や子会社をつくって自ら生産するのか。そして、それはどの国で、どの産業で起こりやすいのか。
主張とメカニズム
Dunning (1988) によれば、折衷パラダイムは当初の形で、「国際生産(海外直接投資によって資金を得た生産活動)の範囲、形態、パターンは、企業が認識する三組の優位の組み合わせによって決まる」と述べていた。Dunning (1988) はその要点を、企業の所有特殊的優位、国境を越える市場を内部化する傾向、外国の立地の魅力、の三つの組み合わせにあるとまとめている。この論文は、1976年に最初に示した枠組みについて、それまでの批判を検討して主な主張を整理し直し(restatement)、いくつかの拡張を試みたものである。「折衷」(eclectic)という語は、企業の国境を越える活動を十分に説明するには複数の経済理論の流れを引く必要があること、そして海外直接投資は国際的な経済関与の数ある経路の一つにすぎないことを表すために選ばれた。Dunning (2000) は、立地論が多国籍企業の活動の「どこで」を、産業組織論や資源ベース理論が外国企業の競争上の強みの「なぜ」を、企業を契約の結節点とみる考え方が、企業が自社の強みを外国の企業に売らずに海外直接投資を選ぶ理由を説明する、と整理している。
所有の優位(O)とは、ある企業が外国の企業に対して持つ強みである。Dunning (1988) は、それ以前の自身の分類を引き継いで、これを二つに分けている。一つは、特許や商標のような特定の資産を独占的に持つことから生じる資産の優位である。もう一つは、複数の国にまたがる拠点を一つの企業のもとで統治することで、取引の費用を下げられることから生じる取引の優位である。立地の優位(L)とは、ある国で生産することの魅力であり、資源、労働、市場の大きさ、政策などから生じる。内部化の優位(I)とは、所有の優位を他社に売ったり貸したりせず、自社の中で使うほうが得になることである。技術を他社に使わせると、財産権が侵害されたり品質を保てなかったりするおそれがあるためである。Dunning (1988) は、内部化の背景に国境を越える中間財市場の失敗があるとし、その動機として、最終製品の品質を確かめること、財産権を守ることなどを挙げている。
Dunning (2000) によれば、国境を越える中間財市場を内部化する純便益が大きいほど、企業は外国企業に生産の権利をライセンスするより、自ら外国で生産することを選びやすい。また、必要な立地の条件が国内より外国に有利であるほど、海外直接投資を選びやすい。どの優位がどの程度重要かは、国、産業、企業の特性によって異なるとされる。
身近な例
たとえば、独自の精密加工技術を持つ部品メーカーが、ある新興国への進出を考えているとしよう。まず、他社にない技術という所有の優位がある。次に、その国には大きな顧客企業が集まり、人件費も比較的低いという立地の優位がある。最後に、技術を現地企業にライセンスすると、技術が流出したり品質が落ちたりするおそれがあるので、自社で管理したい。これが内部化の優位である。三つがそろうので、このメーカーは現地に自社工場を建てるという選択をしやすい。もし現地の立地に魅力がなければ、国内で生産して輸出するほうが合理的になる。
主要概念
- 所有特殊的優位(ownership-specific advantages, O)
- 技術、ブランド、経営ノウハウなど、ある企業が他国の企業に対して持つ固有の強み。
- 立地特殊的優位(location-specific advantages, L)
- 資源、労働力、市場、政策などから生じる、特定の国で生産活動を行うことの魅力。
- 内部化の優位(internalization advantages, I)
- 自社の強みを市場で他社に売ったり貸したりするより、自社の中で使うほうが得になること。
- 海外直接投資(foreign direct investment)
- 企業が外国に子会社や工場を設けるなど、経営への支配を伴う形で海外に投資すること。
代表的な展開研究
- Dunning, J. H. (2000). The eclectic paradigm as an envelope for economic and business theories of MNE activity. International Business Review. DOI ↗折衷パラダイムを、多国籍企業の活動を説明する複数の経済・経営理論を包み込む「封筒」として位置づけ直した。あわせて、パラダイムを動態化し、既存の優位を増やすための(asset-augmenting)海外直接投資や提携による活動まで含めるよう広げることを論じた。
- Dunning, J. H. (2001). The eclectic (OLI) paradigm of international production: Past, present and future. International Journal of the Economics of Business. DOI ↗パラダイムの成り立ちと変遷を振り返り、今後の拡張の方向を論じた。
批判と境界条件
Dunning (1988, p. 1) 自身が、折衷パラダイムは一般的であるがゆえに、特定の種類の国際生産を説明・予測する力は限られ、個々の企業の行動についてはなおさらだと認めている。ただし、この弱点は、国際貿易の一般的で検証可能なパラダイムをつくろうとする試みにも同じように向けられる、と応じている。Dunning (2000, pp. 183–184) も、初期の版では OLI の変数と海外直接投資の関係について一般的な仮説を示すにとどめ、特定の変数と特定の種類の投資の関係については具体的な仮説を出さなかったと述べる。パラダイム自体が特定の文脈に向けたものではなかったためである。さらに、提携や、既存の優位を増やすための投資まで含めた現在の版では、一般的な仮説すら立てにくいと認めている。そのうえで Dunning (2000, p. 166, 注9) は、このパラダイムを、検証可能な個々の理論を収める体系的な枠組みと位置づけている。
三つの優位を分けること自体にも批判がある。Dunning (1988, p. 3) は、多国籍企業の強みに外部の市場がない場合には、所有の優位と内部化の優位の区別は無意味に見えるかもしれないと述べ、Buckley & Casson (1985) や Casson (1987) が、国際的な中間財市場の失敗は多国籍企業の存在を説明する必要十分条件だと論じたことを紹介している。これに対して Dunning (1988, p. 3) は、市場を内部化する能力と、内部化する意思とを区別することは有用であり、論理的にも正しいと応じた。また Dunning (1988, p. 4) は、立地の優位を所有の優位と分けて扱う一方で、どこに拠点を置くかの決定は、資産の所有や取引の経路から独立ではないと認めている。Dunning (2000, p. 163) は、三つを相互に依存する変数の組として扱っている。
企業ごとの戦略の違いや、時間を通じた変化を扱いにくい、という批判もある。Dunning (1988, p. 6) によれば、一部の経営研究者は、多国籍企業の意思決定者の戦略的な反応を、国際生産の水準とパターンに影響する最も重要な要因とみなす。Dunning (1988, p. 7) は、体系的な行動のパターンは枠組みに取り込めるが、純粋に個別的な行動は取り込めないと認めたうえで、そうした部分は多くの企業で小さいと応じた。また Dunning (1988, p. 14) の整理によれば、Vernon (1985) は、このパラダイムが静学的で、国際的な寡占企業どうしの行動上の相互作用を扱えないと批判した。
政策の面からの批判もある。Dunning (1988, p. 9) の整理によれば、Kojima (1978, 1982) は、このパラダイムがミクロ的・企業寄りにすぎ、本国や受入国の政策形成には役立ちにくいと批判した。Dunning は、パラダイムの規範的な含意の多くは Kojima の提言と一致すると応じている。Dunning (2000, p. 184) は、折衷的であるにもかかわらず、その構成にうまく収まらない外国企業の活動もありうることを認めつつ、良いパラダイムの基準の大半はなお満たしていると述べている。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Dunning, J. H. (1988). The eclectic paradigm of international production: A restatement and some possible extensions. Journal of International Business Studies. DOI ↗
- Buckley & Casson (1985). The economic theory of the multinational enterprise. Macmillan(書籍).
- Casson (1987). The firm and the market. Basil Blackwell(書籍).
- Vernon (1985). Comment on chapter by J. H. Dunning and G. Norman. In A. Erdilek (Ed.), Multinationals as mutual invaders. Croom Helm(書籍の章).
- Kojima (1978). Direct foreign investment. Croom Helm(書籍).
- Kojima (1982). Macroeconomic versus international business approach to direct foreign investment. Hitotsubashi Journal of Economics.
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