理論・視点

職務埋め込み(ジョブ・エンベデッドネス)Job Embeddedness

一言で言うと

人が会社にとどまるのは、仕事に満足しているからだけではない。職場や地域の人や活動とのつながり、仕事や暮らしとの相性、辞めると失うものの大きさが、網のように人をその職にとどめている、とする考え方。

説明したい問い人はなぜ、今の職場にとどまり続けるのか。満足や愛着のほかに、何が人を引き留めているのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

人が会社を辞める理由は、主に、仕事への不満や組織への愛着の弱さ、他の職の見つけやすさから説明されてきた。Mitchell, Holtom, Lee, Sablynski & Erez (2001) は、視点を逆にして、人はなぜとどまるのかを問うた。満足や愛着とは別に、人をその職に引き留めている力があるのではないか。

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主張とメカニズム

Mitchell et al. (2001) は、職務埋め込みを、人がはまり込んで動けなくなる網やクモの巣のようなものだとたとえた。職務埋め込みとは、「従業員が職を離れない理由の積み重ねで、おおむね感情によらないもの」であり、「一種の動けなさ、惰性、現状維持への傾き」をなすものである。

職務埋め込みは三つの次元からなる。つながりは、本人と、組織や他の人との公式・非公式の結びつきである。適合は、本人が感じる、組織や環境との相性や居心地のよさである。犠牲は、職を離れることで失われる物質的・心理的な利益の、本人が知覚する大きさである。三つの次元にはそれぞれ、職場に関わるものと、住んでいる地域に関わるものがある。たとえば、同僚やかかわっている仕事、持ち運べない福利厚生や年金、通勤の便利さや柔軟な勤務時間は、辞めると失われる。持ち家や近くに住む親しい友人、地域の活動は、地域とのつながりをつくる。

著者らは、スーパーマーケットのチェーンと地域病院の従業員を調査し、その後1年間の自発的な離職を追った。職務埋め込みが強い人ほど、離職の意図が低く(r = −.41と−.47)、実際に辞める人も少なかった。職務満足、組織へのコミットメント、転職活動、他の職の見込みをすべて考慮しても、職務埋め込みは、病院の標本では離職を予測し、スーパーマーケットの標本でも境界的ながら同じ傾向を示した(いずれも片側検定)。

65の標本(42,907人)をまとめた Jiang et al. (2012) のメタ分析では、職場での埋め込みは離職の意図(rc = −.48)や実際の離職(rc = −.19)と、職場外(地域)での埋め込みも離職の意図(rc = −.22)や実際の離職(rc = −.12)と関連していた。職務満足、情緒的なコミットメント、他の職の見込みを考慮しても、両方の埋め込みは離職を追加で予測した。ただし、追加で説明できた割合は、離職の意図で3%、実際の離職で1%と小さかった。職場外の埋め込みと離職の意図との関連は、集団主義的な文化の標本でより強かった。

Mitchell et al. (2001) は、組織が引き留めに使える手がかりとして、社員を指導役にしたり長期のプロジェクトに加えたりすること、地域活動への参加を支えること、勤続に応じた待遇を用意することを挙げ、お金と職務満足だけに頼る引き留めは狭すぎるかもしれないと述べた。

03

身近な例

地方の工場で15年働いている人がいるとしよう。仕事そのものへの満足は高くない。けれども、気心の知れた同僚がいて、若手の指導も任されている(つながり)。自分の技能は今の工場のやり方によく合っている(適合)。持ち家のローンが残り、子どもは地元の学校に通い、勤続年数に応じた手当もある(犠牲)。転職サイトを見ることはあっても、実際に動く気にはなれない。

不満があっても辞めないのは、網のように張りめぐらされた、辞めない理由の積み重ねがあるから、と捉えるのが職務埋め込みの見方である。

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主要概念

職務埋め込み(job embeddedness)
従業員が職を離れない理由の積み重ねで、おおむね感情によらないもの。一種の動けなさ、惰性、現状維持への傾き。
つながり(links)
本人と、組織や他の人との公式・非公式の結びつき。
適合(fit)
本人が感じる、組織や環境との相性や居心地のよさ。
犠牲(sacrifice)
職を離れることで失われる物質的・心理的な利益の、本人が知覚する大きさ。
職場の埋め込みと地域の埋め込み(on-the-job / off-the-job embeddedness)
つながり、適合、犠牲のそれぞれについて、職場に関わるものと、住んでいる地域に関わるものを区別したもの。
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代表的な展開研究

  • Jiang, K., Liu, D., McKay, P. F., Lee, T. W., & Mitchell, T. R. (2012). When and how is job embeddedness predictive of turnover? A meta-analytic investigation. Journal of Applied Psychology. DOI ↗65の標本(42,907人)をメタ分析し、職場と地域の埋め込みが、職務満足やコミットメントを考慮しても離職を追加で予測すること、その関連が文化や組織の種類によって異なることを示した。
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批判と境界条件

Mitchell et al. (2001) 自身が、職務満足などを考慮したうえで職務埋め込みが追加で説明する離職の割合はそれほど大きくないため、新しい概念と尺度を使うに値しないという反論もありうると述べている(そのうえで、この概念の価値を示す理由を三つ挙げた)。職務埋め込みは、満足やコミットメントなどの既存の概念に代わるものではなく、それらを補うものとして提案されている。尺度も発展途上で、上司との関係を尋ねる項目がないなど、改善の余地があるとした。Jiang et al. (2012) も、つながり、適合、犠牲を別々に検討できなかったこと、時間を追った因果関係は調べられなかったことを限界に挙げている。

また、これらの研究は職務埋め込みを、人を職にとどめる力として扱っており、とどまることがその人にとって良いかどうかは、研究の対象になっていない。Mitchell et al. (2001) は、職場に深く埋め込まれることが仕事と家庭の葛藤を生み、かえって離職につながる可能性にも触れている。

研究上の位置づけ

原典Mitchell, T. R., Holtom, B. C., Lee, T. W., Sablynski, C. J., & Erez, M. (2001)
Why people stay: Using job embeddedness to predict voluntary turnover
分類Concept / theory
分析単位個人
理論系譜心理学 · 社会学
REFERENCES

出典

  • 原典Mitchell, T. R., Holtom, B. C., Lee, T. W., Sablynski, C. J., & Erez, M. (2001). Why people stay: Using job embeddedness to predict voluntary turnover. Academy of Management Journal. DOI ↗

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